
今日は最近読んだなかから「遺伝学・分子生物学・進化論」の本10冊を紹介していきます。
誰に頼まれたわけでもないのに、
生き物たちは、キャラを立てようと必死だ。
集まったほうが有利!
みんなで役割を分担すると便利!
オレよりちいさいやつは食べてしまえ!
いや、追いつかれないほど逃げ足がはやければいい!
敵のいない陸に住んでみよう!
いっそ空を飛んでしまえ!
そうして無数に枝分かれする進化の系図が描くのは、
優劣とか弱肉強食じゃなくて。
ただひたすらにあらゆる可能性を試す、多様性の世界だ。
……そんな感じかな。
教科書あり、エッセイあり、難易度じたいはバラバラの10冊です。
どれも面白いので、直観で心ひかれたものを手にとってみてくださいね。
発生学から進化論まで
刺激に満ちた、センス・オブ・ワンダーな10冊をど〜ぞ♪
遺伝子の不都合な真実
性格、好み、行動、習慣、知能、ある分野に対する向き/不向き……。
あらゆるものに、じつは”遺伝”の影響がある。そんな”言ってはいけない真実”をつまびらかにしていきます。
いたずらにあおるわけではなく、双生児研究をとおして科学的な態度で「事実」と向いあっていく。
”不都合な真実”じたいが問題なのではなく、「機会の平等があるじゃないか」と欺瞞を続けている社会の方が問題。そうきり返す指摘に、ハッとさせられます。
いまある文化環境、社会環境に適応させることのみを目的とし、その意味での望ましい行動へ変化させるという考え方一辺倒では、常に私たちは環境のなすがまま、社会環境から与えられる価値観の制約に服従し続けねばなりません。「第4章 環境の不都合な真実」より
不自由さの原因は遺伝の側にあるのではなく、遺伝にとって不都合な環境の方にあるという逆の側面がみえてきます。「第4章 環境の不都合な真実」より
多様さを多様さのまま受けいれる、新たな時代の指針として。
いま読んでおきたい1冊♪
遺伝マインド
↑『遺伝子の不都合な真実』の前編にあたる本。
テーマは一緒でそれぞれ独立しているので、どちらから読んでもOKです。
本書のいう「遺伝マインド」とは、人間の心や行動、社会との関係などすべてに”遺伝の影響”があるとみるスタンスのこと。
一卵性双生児の研究からはじまり、人の活動と遺伝の関係を洗いだしていきます。
『不都合な真実』と同様、”遺伝的な資質の差”をないものとする現代こそ逆に「優生社会」ではないかと問題提起をしています。
遺伝的な差異による不平等を正当化する社会を優生社会とよぶならば、われわれの社会はこんにちまさに紛れもなく優生社会である。環境が平等だと考えられ、心構えを正そうと試みられたところに、なおかつ生じた差異と不平等は、もはや本人の責任として正当化されてしまうからだ。「終章 遺伝マインドで考える」より
『遺伝子の不都合な真実』よりも哲学的な記述が多め。
哲学書のように、”新たな概念”も出てきます。
個人的に好きなのが↓これ。
遺伝的コックさん豚さんごめんなさい感情切実性「終章 遺伝マインドかで考える」より
……なにこれ(笑)。
えっと、量が多いカツ丼を出されたときに、がんばって食べきるか残すかという選択にも遺伝的な性格傾向が影響してるんだよ、という例で登場する言葉です。
(食事を残すことを)切実に”ごめんなさい”と感じてしまうひとは、がんばって食べる。
それが「遺伝的コックさん豚さんごめんなさい感情切実性」( *´艸`)
関連記事:
【遺伝と環境】行動遺伝学を学びたい人のための19冊【生まれか育ちか】
ゲノム編集
ゲノム編集とは、細胞のDNA塩基配列を狙いどおりに書き換える技術のこと。
塩基配列は……A・T・G・C がつらなるアレね。
本書は遺伝の仕組みから、ゲノム編集の方法、さまざまな分野への応用、最新技術、テクノロジーの未来まで、この領域の基本的な知識をコンパクトにまとめた良書です。
先端技術の紹介では専門的な言葉やむずかしい解説も出てきますが、発生学の基本から教えてくれるので大丈夫。
事前の知識がなくても、驚くほどすんなりと理解できるはず♪
よく耳にする PCR(polymerase chain reaction)の説明もあります。
医療や農業など応用分野は広く、ゲノム編集はいまもっともホットな”未来の技術”。
とてもわかりやすい本なのでぜひ。
関連記事:
最近読んだ「未来の社会・経済を予測する」本10冊
分子生物学
さらにふかく学びたいひとのために、ナツメ社の図解シリーズを。
タイトルは「分子生物学」ですが、扱う分野は↑の「ゲノム編集」とおなじです。
図解シリーズというと入門書のイメージがあるけれど、本書はかなり本格的。
厚くて、内容もほとんど教科書といっていいくらいです。
第1章 DNAの秘密
第2章 RNAの秘密
第3章 タンパク質の秘密
第4章 遺伝子翻訳の調節
第5章 遺伝子操作技術
第6章 遺伝子技術の応用
各章末に「理解度チェック」のクイズがついていて、かなり歯ごたえがある。本気でこちらの理解度を試してきます><
難易度は↑『トコトンやさしいゲノム編集の本』よりはるかに上ですが、この分野に興味があれば楽しい1冊。
創薬や再生医療など、最新のバイオテクノロジーを知るうえでも基本となるジャンルなので、一度概要をつかんでおくといろいろな場面で役にたちます♪
利己的な遺伝子
みんな大好きドーキンス♪
生物学や進化論にかぎらず、あらゆるジャンルに影響を与え続けているロング&ベストセラーです。
(私信。や、やっと読み終えました>< 名著!)
”タイトルのせいで誤解をまねいている本ナンバーワン”と言っていいかも。
なんだかまるですべての生物が自分の利益しか考えていないような印象を受けるタイトルですが、じつは本書は”利他的行動”にもかなり筆をさいています。
「利己的」なのはあくまで”遺伝子”。
生物は遺伝子を乗せて運ぶための「生存機械」。
遺伝子はじぶんの分身を増やし、後世に残るべく、様々な策をこらす。
そんな世界観。
ダーウィンの『種の起源』を遺伝子の視点から洗練させた、ネオ・ダーウィニズムの本です。
もちろん遺伝子に意志があるわけではなくて、たんに自分本位に”見える”だけ。
遺伝子にとってのメリットと個体にとってのメリットは異なるので、自己犠牲的に子供や血縁者につくしたり、子孫を残せない構造の個体があらわれることにもなる……。
「遺伝子プール」と「ESS(進化的に安定な戦略)」のモデルを使えば、ほんとうにいろいろなことが説明できます。
知識ではなく”考え方を得る”本。
生き物の世界の複雑さがどんどんほどかれていきます。
さらに、本書が語ろうとする”原理”は、既存の地球の生物をこえた普遍的をめざしてゆく。
たとえ炭素の代わりに珪素を、あるいは水の代わりにアンモニアを利用する化学的仕組みを持つ生物が存在したとしても、また、たとえマイナス一〇〇度で茹で上がって死んでしまう生物が発見されても、さらに、たとえ化学反応に一切頼らず、電子的な反響回路を基盤とした生物が見つかったとしても、なおこれらすべての生物に妥当する一般原理はないものか。「第11章 ミーム 新たな自己複製子」より
……。
電子回路を基盤とした生物!
関連記事:
ぜんぶAIが決めてくれる世界ってどう思う?〜人工知能社会での「選択」と「自由」を考える本10冊
”自己複製子”を文化や概念など形而上の空間にあてはめて考えてみたり(「第11章 ミーム 新たな自己複製子」)、”遺伝子の表現型”を環境や他の個体にまで広げて語ったり(「第13章 遺伝子の長い腕」)、自由な思考実験も魅力的。
刺激的でほんとうに面白い。殿堂入りの名著です。
おもに末尾の「補注」など、版を重ねるごとに改訂がくわえられているので、↑最新版で読むのがオススメ。
すべての生物は、自己複製する実体の生存率の差に基づいて進化する「第11章 ミーム 新たな自己複製子」より
☆★☆
ここからは生物学の学習からちょっと離れ、純粋に読み物として面白いエッセイや自伝をピックアップしていきます。
動的平衡2
以前の記事(最近読んだビオトープをつくるための本10冊)で紹介した『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』の続編。
続編ですが、独立した話なので前作を読んでいなくても大丈夫。
生物学者の福岡伸一さんが、アートや音楽、ときにはダンスにまで視点を広げて、「生命とは何か」を考えていく。
今回のテーマは「自由」。
たんに”遺伝子の乗り物”なだけではない命の豊饒さを、美しい文章で語ります。
ドーキンスが『利己的な遺伝子』(邦訳/日敏隆ほか、紀伊國屋書店)を書いてから、はや三〇年余り。私達はもう少しリラックスして生命を捉えなおすべきではないだろうか。「第1章 『自由であれ』という命令」より
遺伝子は私たちを規定し、運命づけているように見えるけれど、それは楽譜の音符のように使う音の高さと長さを指定しているだけだ。
(中略)
どれくらいの強度で、どんなフレージングで、どんな指使いで弾くのかはすべて奏者に委ねられているのだ。「第1章 『自由であれ』という命令」より
遺伝子を”楽譜”ととらえる感性、いいですね。
エッセイなので専門知識がなくても読みやすい。
とても綺麗で、上品な文学作品の香りがただよう文章が素敵v
生物の多様性を知るということは、その姿形の多様性を知ることだけにとどまらない。その生きざまの多様性を知ること。そこにこそ目を瞠るようなワンダーがある。「第2章 なぜ、多様性が必要か」より
おおきく加筆修正し新書として生まれ変わった新版↓もリリースされています。
お好きなほうををどうぞ♪
動的平衡3
せっかくなので「3」も読みました♪
水、老化、ゴルジ体、遺伝子、腸内細菌、がん……生物学のお話から、音楽やアートまで。
自由に飛躍する美しい文章は相変わらずですv
フェルメールの光もストラディヴァリウスの音も、最初から動的なものとして作られ、絶えず息吹を吹きこまれ、温度を受け入れ、記憶を更新し、解釈されつづけるもの、つまり生命的なものとしてこの世界に生み出され、今もなお生き続けるものだからである。「第8章 動的平衡芸術論」より
フェルメールやストラディヴァリウスが登場する生物学の本はなかなかない。
↓でお話しする「STAP細胞」騒動についてのコメントもあります。
あの日
「STAP細胞」騒動の渦中で苦しんだ研究者・小保方晴子さんの手記です。
(私信。読みました♪ まさに小説のようにひきこまれてイッキ読みでした)
STAPとは……
刺激惹起性多能性獲得(Stimulus-Triggered Acquisition of Pluripotency)の頭文字をとったもの。
特定のストレスを与えることで、分化が済んでいる(すでに役割がきまっている)細胞から何にでもなれる細胞をつくりだすことができる「STAP現象」が確認された。
学術誌にそう発表されたことではじまったのがこの騒動です。
先行していたES細胞やiPS細胞の研究に劣らず画期的で、受精卵の一歩手前の多能性をもつ細胞をつくれる可能性がある。
当時は世界じゅうから大注目されたそうです。
本書は小保方晴子さんの個人史とともに、専門的な研究の概要もしっかり描きこまれていて魅力的。
ラボの風景、実験の様子、科学雑誌に論文を掲載する過程など、まったく知らない世界で興味をそそられました。
でね。
この本、文章がすごく良いの。
抑制のきいたとってもおいしい文体です。
あの日に戻れるよ、と神様に言われたら、私はこれまでの人生のどの日を選ぶだろうか。一体、いつからやり直せば、この一連の騒動を起こすことがなかったのかと考えると、自分が生まれた日さえも、呪われた日のように思えます。「はじめに」より
↑書き出しの文章です。
後半の、マスメディアに追いつめられていく場面の心理描写もすごくて。
正直、読みながらつらくなってしまうくらいの迫力がありました。
以前の記事(最近読んだ10冊U、最近読んだ「世界観がダークな」本10冊)で紹介した『八本脚の蝶』や名作『夜と霧』のような感じ。
共感しすぎに注意、です。
騒動の顛末や著者のキャラクターとは関係なしに(このブログで本を紹介するときは、なるべく〈作者〉や〈社会〉とは切り離して”作品自体”をレビューしているつもりです)、1冊の本としてオススメv
小保方晴子日記
↑『あの日』が素晴らしかったので、小保方晴子さんの本をもう1冊読んでみました。
2014年12月〜2016年10月の日記をまとめたものです。
独立した作品ですが、状況の説明などはかなり省かれているので、『あの日』を先に読んでいたほうがスムーズかも。
マスコミから逃れるための放浪の旅。
いわれのない刑事告発。
学位の取り消し。
精神科の病棟……。
『あの日』におとらず本書も、ページをめくるのがキツくなるほど迫ってくるものがあります。
今回は日記文学や私小説のような味わい。
以前の記事(最近読んだ純文学(J文学・L文学)10冊〜青山七恵さんの”ぼっち文学”について)で紹介したような純文学が好きなひとにオススメです。
雪道を走っている間、完全に雪にハンドルを取られ車がコントロールを失い回転スリップ。真っ白な狭い山道が回った。「あ、死ぬ」と思った途端に車が止まった。死ぬ、と思った時、ものすごく久しぶりに深い安堵感に包まれた。「とにかくどこかへ」より
『あの日』も『日記』も良書ですが、かなり”強い”本なので取り扱い注意! です。
とても感情移入してしまう文章。メンタルが弱っていないときに読まないとココロをもっていかれるかも><
『夜と霧』や『八本肢の蝶』と同様、こういう、極限を描いた本を読むのは大切だと私は思っていて。
その理由が、奇しくも本書の「あとがき」で語られていました。
私は分けられた火をまた誰かに分けながら生きていく。今日の日記にはそう書くつもりだ。「あとがきにかえて」より
重たいけれど、誰かの”灯り”になれる本だと想いますv
末尾には瀬戸内寂聴さんとの対談が収録されていています。
働かないアリに意義がある
アリの集団のなかには、よく働くヤツとサボりがちのヤツがいる。なぜか。
以前の記事(ニートが読むべき12(プラス9)冊)でも紹介した1冊です。
”サボリアリ”だけをまとめてみても、やっぱり働くヤツとサボるヤツがあらわれる。
めっちゃ不思議……ですが、「反応閾値」の違い(「仕事に対する腰の軽さ」の個体差)を想定すると、きれいに説明できる。
この美しい理論だけでなく、さまざまな生物の奇妙なふるまいを”進化(淘汰)の過程でなぜその性質が残されてきたのか”という視点でひもといていく刺激的な1冊。
↑でとりあげたドーキンスの『利己的な遺伝子』が面白かった方にオススメです♪
女王アリに仕えることが、自分が子を生むよりも”合理的”である「血縁選択」。
集団のなかで利益だけを享受する「チーター(フリーライダー)」。
血縁も種も関係なく、群れること自体にメリットがある「群選択」。
遺伝的なクローンだけを次世代に伝える「コカミアリ」と「ウメマツアリ」。
もちろん、コロニーじたいをひとつの生命体と見立てる「超個体」のお話もあります。
逆に、ひとつの身体を無数の細胞がおりなすコロニーと考える視点も。
われわれヒトもたった一つの細胞である受精卵が分かれて増えてたくさんの細胞になり、それらが様々な器官に分化してできたことはご存じですよね? そう考えると、われわれの体そのものが一つの「社会(群れ)」なのではないでしょうか?「第5章 『群れ』か『個』か、それが問題だ」より
多数の細胞が集まった個体を一つの「社会」と考えると、その進化と維持も血縁選択や群選択、長期的適応度の観点から解釈できるわけです。「第5章 『群れ』か『個』か、それが問題だ」より
なんだかそのままガイア理論(地球をひとつの生命体とみなす)へ広がっていきそう( *´艸`)
ドーキンスの世界観ともリンクしています。
私はやがて人々が、じつは私たちの遺伝子一つひとつが共生単位であるという急進的な考えかたを受け入れるだろうと思っている。私たちは、共生的な遺伝子たちの巨大なコロニーなのだ。『利己的な遺伝子』「第10章 ぼくの背中を掻いておくれ、お返しに背中を踏みつけてやろう」より
しっかりと生物学の本なのですが、語り口はとてもやさしく。
アリやハチのセカイを人間や会社になぞらえて話してくれるので、ビジネス書のような感覚で読むことができます。
未読ならぜひv
(↑で紹介した『動的平衡2』でも「面白い」と推薦されていました)
ノーリスク・ハイリターンの投資は"読書"♪
あきか(@akika_a)
(冒頭の写真は蓼科高原のバラクライングリッシュガーデンで撮ったアマガエルです。2匹いるの、気づきました?)
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ぜんぶAIが決めてくれる世界ってどう思う?〜人工知能社会での「選択」と「自由」を考える本10冊
最近読んだ10冊U
最近読んだ「世界観がダークな」本10冊
最近読んだ純文学(J文学・L文学)10冊〜青山七恵さんの”ぼっち文学”について
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