2017年03月16日

「PSYCHO-PASS(サイコパス)」はノベライズから先に読んでもいいかもしれない

 
今日のなぞなぞ
「アニメを観るより先にノベライズを読んでもいい作品は?」



オススメのアニメは? と訊かれたら、私は真っ先に「PSYCHO-PASS(サイコパス)」を挙げる。
大好きな作品です♪(ジブリは別腹)

あなたがもし、「サイコパス」をまだ観ていないとしたら、
先に↑ノベライズから入るのもいい
かもしれない。
今日はそんなお話。



☆★☆



今日紹介する本は、名作アニメ「PSYCHO-PASS(サイコパス)」のノベライズ版。
アニメ版の物語を忠実に再現し、”ボーナストラック”をくわえた小説です。

以前の記事(小説版『PSYCHO-PASS<0>(サイコパスゼロ)』の心理描写がスゴくてほとんどBL(ボーイズラブ))で紹介した



↑この本は、アニメでは詳細が語られなかった事件を描いた”スピンオフ”作品ですが。
本日取りあげる「小説 PSYCHO-PASS」はわりと原作(アニメ版・第一期)どおりです。


SF&サスペンスの名作「PSYCHO-PASS」。
どんな世界観なのかというと……。


「そのひとが”犯罪に手を染める潜在的な確率”」をシステムが絶えず計測、管理している近未来が舞台なのね。

システムの判断によっては、罪を犯していない人でも「潜在的な犯罪者」として”予測逮捕”される。

ほとんどの犯罪は未然に防がれるので、
警察のカタチもすっかり様変わりしていて。少数精鋭の組織となっています。


☆★☆



市民のメンタリティを常に監視しているこの制度は「シビュラシステム」と呼ばれています。これが社会のすみずみにまで影響を与えている。

このシビュラが、すごい。
シビュラが予測してくれるのは、犯罪にかかわることだけじゃなくて。


職業適性。
結婚相手。


働き方や生き方に関わることまでシステムが”ご宣託”してくれるわけよ。
で、みんなその提案に従って生きている。

シビュラの予測の精度はすごいので、
かなりの確率でその人は”幸せ”に生きることができる。
ある意味「理想郷」が実現しているともいえる世界です。
(システムからはじかれた「潜在的な犯罪者」以外の人にとっては……)



これ、どう思います?


あなたの性格傾向や才能をみて、自動的に最適な仕事が振りわけられる。
AI(人工知能)が、理想的なパートナーを割りあててくれる。

ぜんぶ。
ぜんぶ、機械が決めてくれる。


なにも考えなくても”幸せ”になれる。


そんな社会に生きてみたいと思うかもしれない。

そんなのぜんぜん人間的じゃない! と思うひともいるかもしれない。




本書に登場するキャラクターたちも、立場によって
いろいろな「シビュラに対する葛藤」を抱いています。

「PSYCHO-PASS」はひと口に言ってしまえば、”近未来の刑事もの”なのですが、
テーマとしては超管理型社会の是非を問う物語かもしれません。


☆★☆



でね。
以前の記事(最近読んだ「未来を予測する」本10冊)でもお話ししたんだけど、
「PSYCHO-PASS」の設定を語るとき、どうしても私が連想してしまうのが「パノプティコン」というモデルなのね。

パノプティコンは、監獄です。
中央に監視塔があって、個室(独房)がそのまわりを囲っている。
看守はすべてを見通せるけれど、囚人は監視者の姿も、ほかの囚人の姿も見えない。

この状態だと、たとえ監視塔に看守がいなくても、
「見られてるかもしれないから……」と囚人は規律に従って行動するようになる。

ポストモダン哲学の雄、↑ミシェル・フーコーが「管理・監視社会」の比喩として用いたモデルです。
(建築としてのパノプティコンの提唱者はジェレミー・ベンサム)


「PSYCHO-PASS」の世界も、べつに看守という権力者がいるわけではありません。
シビュラというシステムが社会インフラになっているだけ。

でも人々は「シビュラにどう判断されるか」を常に気にしていて
日々のメンタルケアにいそしみ、色相(潜在的な犯罪者度を色で表したもの)が曇らないよう努力している。
監視者は不在なのに、自分で自分を監視している。規律は「内面化」している。



☆★☆



えっとね。
なにも私が勝手にパノプティコンと「PSYCHO-PASS」と結びつけているわけではなくて。
本書のなかで、まさにフーコーやベンサムの話がでてきます。


「マックス・ウェーバーの言葉を借りれば、理想的な官僚とは『憤怒も不公平もなく』さらに『憎しみも激情もなく』、『愛も熱狂もなく』、ひたすら『義務』に従う人間のことだという。シビュラシステムは、そういう意味では理想の官僚制的行政に近いかもしれない。

(中略)

「あいつは……マックス・ウェーバーを持ちだされた次の瞬間には、フーコーやジェレミー・ベンサムの言葉を引用して返すでしょう」

『小説 PSYCHO-PASS サイコパス (下)』 「第十九章 透明な影」より


犯人を追いながら、シビュラについて議論する場面です。
最初のセリフは雑賀譲二(さいがじょうじ)という教授。
ふたつめのセリフは狡噛慎也(こうがみしんや)。公安局の刑事です。
「あいつ」とは槙島聖護 (まきしましょうご)のこと。最凶の犯罪者。


マックス・ウェーバーは、実在の社会学者です。
社会学というジャンルを打ち立てたと言ってしまってもいいくらいの重要人物。
資本主義の発展が、欲望の追求ではなく、じつは宗教的な「禁欲」に基づいていると示した↓『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』がとても有名です。



↑雑賀教授の「理想的な官僚〜」のくだりは↓『権力と支配』の引用です。





ジェレミー・ベンサムは「功利主義」(もたらされる効用・満足度の大きさによって社会制度を設計するべしという態度)の始祖

「最大多数個人の最大幸福」という言葉が有名ですね。
それぞれの人の”幸せ感”の総和が最大になるように分配されている状態。
経済学でいう「パレート最適」(※)のこと。

※ 最大の”満足度”が追求された最適な配分状態のこと。誰かの”満足度”あげるためには、ほかの誰かの”満足度”を悪化させなくてはならないくらい、資源等が行きわたっている状態。



☆★☆



本書では(アニメでも)、こんなふうにいろいろな本が引用されているのね。
このシーンだけが特別なわけじゃなくて。


シェイクスピアとか寺山修司とか、ジョゼフ・コンラッド、ジョージ・オーウェル、フィリップ・K・ディック、聖書まで……。


あらゆる場面で、いろんな本が登場
します。
あと、キャラクターが本を読んでいるシーンがやたらと多い!

もちろん電子書籍がじゅうぶん普及している社会なのですが、
狡噛慎也も槙島聖護も、”紙の本”を好んでいる。



↑の雑賀と狡噛のやり取りだけをみても感じると思うのですが……



『PSYCHO-PASS』は情報量がものすごく多い作品


です。

ひとつひとつのセリフもそうだし。
シビュラシステムについての言及も、多岐に渡る。
警察組織をはじめ、社会の姿が今とまるで違うので、描写の奥を読んでいかないといけない。


↑冒頭で「アニメより先にノベライズを読んでいい」とお話ししたのはこういう理由からです。
さらっとアニメ版を観ただけでは、世界を味わいつくせない。
ときには立ちどまり、考えながら楽しめる”本”という形式が合っている作品ですv

本書に登場する槙島聖護のセリフにのっとっていうならば……



「紙の本を買いなよ」


……ということになります。

ほんとに。
ほんとに、こんなセリフが出てくるの。
槙島聖護きゅんは

みんな本読もうよぉ〜☆(*´∇`*)ミ☆

ってずっと言っているような気がします(笑)。


☆★☆




名著からの引用が多いので、
このブログでいつも推奨している「芋づる式読書」(その本に出てくるほかの本を、リンクをたどるようにして読んでいく)の起点にもなる本



……なんだか今日は、『PSYCHO-PASS』の設定や細かい点についてばかり語っている、ちょっとマニアックなレビューになってしまいました。
常守朱(つねもりあかね)(主人公)の名前すら一度も出てこないとか、どうなのよ。

まあ、以前の記事(小説版『PSYCHO-PASS<0>(サイコパスゼロ)』の心理描写がスゴくてほとんどBL(ボーイズラブ))があまりにも物語に寄りすぎて
ほとんどボーイズラブなレビューになってしまったので(^^;)、バランスが取れたかも?


そんなこんなで。


『小説 PSYCHO-PASS サイコパス』っていう本は
アニメを観るより先に読んでもいいかもよぉ☆(*´∇`*)ミ☆



というお話でした。

↓文庫版も出ています。






ノーリスク・ハイリターンの投資は"読書"♪


あきか(@akika_a


【関連記事】

小説版『PSYCHO-PASS<0>(サイコパスゼロ)』の心理描写がスゴくてほとんどBL(ボーイズラブ)
最近読んだ「未来を予測する」本10冊
『一般意志2.0』vs『「みんなの意見」は案外正しい』vsビッグデータ






2016年10月14日

「ベルセルク」に学ぶ3つの人生哲学〜3つの名場面から〜

 
今日のなぞなぞ
「漫画『ベルセルク(BERSERK)』から何を学ぶべきか?」



お前の死に場所は俺が決めてやる。

……というわけで。狂戦士ファンのあなたへ。
こんばんは。


このブログで紹介するのは初めてですが、実は私も
前から大好きでしたv


ご存じでない方のためにいちおう紹介しておくと。
「ベルセルク」は雑誌「ヤングアニマル」連載のダークファンタジー漫画です。

1989年から続く超大作で、”隠れファン”も多かったのですが、
2002年に第6回手塚治虫文化賞マンガ優秀賞したこと、
さらに何度もアニメ化されていることなどから、ファンの裾野が広がりました。
いまでは、万人が認める名作です。

今日はこの名作漫画の名場面・名言をとおして、
「哲学」について一緒に考えてみましょ、というエントリです。


 3つの名シーン


3人の登場人物にスポットを当てます。
その3人とは……


グリフィス
四肢を失ってもなお夢を追う白鷹の美青年。




ガッツ
戦い続けることを宿命づけられた黒い狂戦士。




そして……
ニーナ


いや、それニーナじゃない。ベヘリットじゃん!
というファンからのツッコミが聴こえた気がします(笑)。

すみません。ニーナのフィギアは見つかりませんでした。
ニーナは主役格ではなく、脇役です。

聖地のたもとの難民街に、娼婦のコミュニティがあるんだけど、
そこを仕切っているのがルカっていう人物で。
サバサバしているくせに情に熱くて、同性でも惚れてしまうくらいのキャラクターです。

この魅力的なルカ姉の妹分がニーナ。
脇役だ。



俎上にのせる名ゼリフは以下の3つ。
(アニメの脚本ではなく漫画からの引用です)

天空の城めざし
頂きに屍を積み続ける
それがお前だ

それでも なお
お前の目に
あの城が何よりも眩しいのなら
積み上げるがよい


”蝕”の儀式で仲間を贄にすることをためらうグリフィスに対する”悪魔の囁き”(「決別」より)

このまま
あいつの夢に埋もれるわけにはいかねぇんだ

……もうごめんなのさ
あいつの夢の中で
あいつを見上げているのは


グリフィス率いる鷹の団を抜ける覚悟をしたときのガッツの言葉(「炎の墓標2」より)

人は強いってだけで
誰かを傷つけてしまい
弱いってだけで誰かを憎んでしまう

縋(すが)る誰かより
誰かを赦せる自分が欲しい


ルカ姉のもとを離れ恋人と生きていくことを選んだニーナの言葉(「暁(あかつき)」より)


 天空の城


順番にみていきますね。

天空の城めざし
頂きに屍を積み続ける
それがお前だ

それでも なお
お前の目に
あの城が何よりも眩しいのなら
積み上げるがよい


”蝕”の儀式で仲間を贄にすることをためらうグリフィスに対する”悪魔の囁き”


自分の国を手にいれるため、なにも持たないところから傭兵団を組織し
一国の騎士団長にまで昇りつめたグリフィス。
しかし、ガッツが団を離脱したことでいつもの冷静さを失い、焦り
「反逆者」の烙印を押されてしまう失敗をおかす。


夢へと向かう道は途絶えた。


でもそれは、あらかじめ定められていた”運命”で。
グリフィスには、仲間を生贄にすることで新たな”覇者”となれる道がひらかれている。

グリフィスは気づきます。
今までも、同じだったじゃないか。戦争によって地位を築きあげてきた。
敵の、そして命を落とした仲間の、幾千の死骸でつくられた道の先に俺の城はある。
あきらめたら、今度は自分がその屍になってしまう。


夢を追うことの構造的な残酷さ
おぞましくも美しい屍の山で描写した、名シーンです。


なにかを得るためには、
なにかを失わなければならない。

……などという安易な教訓をひきだしてまとめるようなことはしません。


哲学は”答え”ではなく”問い”である。

と私は思う。

この名場面があなたにどんな”問い”を投げかけるのか。
それこそが今日の記事のキモです。


ほんとうに尊い犠牲が必要なのか。ほかに道はないのか?
そのとき自分は屍を積み上げるだろうか?
逆に、あえて”屍になる”のが自分の美意識にかなった生き方か?

……あなたはこの名シーンに
どんな”問い”を感じたでしょうか。




 他人の夢の中


このまま
あいつの夢に埋もれるわけにはいかねぇんだ

……もうごめんなのさ
あいつの夢の中で
あいつを見上げているのは


グリフィス率いる鷹の団を抜ける覚悟をしたときのガッツの言葉


一対一の勝負でグリフィスに破れ、鷹の団に所属した孤高の剣士ガッツ。
魅力的なリーダーと気さくな団員。あたたかい雰囲気のなか、次第に居場所を得ていく。

しかし、あるときグリフィスの”友情観”を知ってしまう。
ガッツが盗み聴きしてしまったのは↓こんなセリフです。


「私にとって友とは……
決して人の夢にすがったりはしない

(中略)
自分の生きる理由(わけ)は自らが定め
進んでいく者……

そして その夢を
踏みにじる者があれば
全身全霊をかけて立むかう…
たとえそれが
この私自身であったとしても…

(中略)
そんな…”対等の者”だと思っています」


ある意味、ガッツに向けて言っているとも取れるセリフなのですが
この言葉を聴いてガッツは、自分がぜんぜん”対等”でなかったことを想い知らされる。
グリフィスの右腕……友ではなく”優秀な部下”だったことを。


俺は俺の生き方をする。
ガッツは、鷹の団を抜けることを決めました。


↑ひとつめの「屍の山」とも対応する名場面です。
狂戦士は、白鷹が踏みしだいていく「屍」のひとつになることに耐えられなかった。
”真の友”となるために別れねばならない。深いシーン。



他人の夢のなかで生きる


……ビジネスパーソンのあなたなら、身につまされる話かもしれません。
もちろん会社員も、鷹の団のメンバーも脅されて強制されて働いているわけでありません。


キャスカもジュドーもコルカスも(団員メンバーの名前です)、
みずからの意志で選択し、鷹の団を居場所にしている。
みなそれぞれ、身の丈にあった自分の”夢”を描いている。

でも、だれもグリフィスと”対等”になろうなんて思ってもいません。


↓以下はコルカスのセリフ。

「あいつは特別なんだよ!!
オレ達とは違うんだ!!」

「勝利者になれるのは
ほんの一握りの人間だけだ!!

大抵の人間は自分の力量や器と自分の置かれた現実に
折り合いをつけて 何とかやっていくもんなんだ!!」

「夢さえあれば か…
そんなもんは現実に目を向けられない弱っちい人間の逃げ口上だよ!」




あ。ところで。
ちょっと話がずれるけど、よく
「私達凡人は……」みたいなことを言ったり書いたりするひと、いるじゃんね。

あれを聴いたり読んだりすると、私はちょっと違和感をおぼえる。
べつに他意はないレトリック(修辞)だとわかっていても、
なんていうのかな。

そんなカンタンに自分の平凡さを認めちゃっていいのかな、とか
いや私達って、むりやり巻き込むなよ、とか。

う〜ん、うまく言えない(笑)。


あ、あとね。
「噴飯もの」「唾棄すべき」「口を酸っぱくして」みたいな表現も、ちょっとあれだな。
いや汚いから! とか思っちゃう。

「垂涎もの」くらいならありかな。
「虫唾が走る」はOKかも。外に飛ばしてないから。


……何の話だ(笑)。
とにかくっ。


あいつの夢に埋もれるわけにはいかねぇんだ

この名ゼリフは、
あなたにどんな”問い”を投げかけましたか?




 弱き者の縁(よすが)


人は強いってだけで
誰かを傷つけてしまい
弱いってだけで誰かを憎んでしまう

縋(すが)る誰かより
誰かを赦せる自分が欲しい


ルカ姉のもとを離れ恋人と生きていくことを選んだニーナの言葉


「ベルセルク」のなかで、個人的に一番好きな言葉です。
グリフィス、ガッツ……”強い者たちの戦い”をメインに据えている物語ですが
ニーナやその恋人のヨアヒムは”弱い者”に寄り添った視点でつくられている良いキャラクターだと思う。


病を患ってしまったニーナは、娼婦として働くこともできず
ルカ姉に頼りっきりの生活をしている。

心の弱さから邪教徒になってしまい、
ヨアヒムをも悪の道に引きずりこむ。

妹分を必死に心配し助けようとするルカ姉に、
ニーナは石を投げつける。



↓以下はルカを罵るニーナのセリフ。

「知ってた!?
私 前からあんたのこと許せなかった!!」

「私を哀れんでるの!! 軽蔑してるの!?
そうやっていい気分になって自分に浸ってるんでしょ!!」

「あんただって私と同じただの淫売じゃないのさ!!
それがどうしてそんな目で
他人を見下せるのよォ!!」



ルカ姉に叱られても救われても、
やっぱりダメダメで弱いまんまのニーナ。
それでも生への執着は強く。
聖地を襲った大災厄から、生き残ってしまう。


強い者は存在じたいが弱い者を傷つけ
弱い者はその強さを憎まずにはいられない。


ふたたびルカ姉を憎んでしまう前に、
ニーナはルカの庇護から離れることを決める……。



あなたが強い者だとしたら。
あなたは無意識に、誰かを傷つけてないだろうか?

あなたにもし弱いという自覚があるのなら。
弱さゆえ誰かを憎んでいることに、気づいているだろうか?


……この名場面は、
あなたにどんな”問い”をもたらしましたか。


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 やっぱり……


以上。
「ベルセルク」に学ぶ3つの人生哲学 でした。
お楽しみいただけましたでしょうか?


以前の記事(「魔法少女まどか☆マギカ」に学ぶ4つの人生訓)がちょっとクサかったので、
今日はすこしひかえたつもりだったけれど。

……やっぱり恥ずかしいね(笑)。
照れる。


ほんとうは……


『ベルセルク』は
名作中の名作だよぉ☆(*´∇`*)ミ☆



と、それだけ伝わればじゅうぶんなのです。
いつもどおり。


ノーリスク・ハイリターンの投資は"読書"♪


あきか


【関連記事】

「魔法少女まどか☆マギカ」に学ぶ4つの人生訓
カテゴリ:漫画・アニメ・ゲーム・ライトノベル





2015年04月21日

小説版『PSYCHO-PASS<0>(サイコパスゼロ)』の心理描写がスゴくてほとんどBL(ボーイズラブ)

 
今日のなぞなぞ
「心理描写がスゴくてほとんどBL(ボーイズラブ)な小説は?」



こんばんは。
今日は心理描写がスゴいノベライズ作品の紹介です。


以前の記事(最近読んだ「未来を予測する」本10冊2010年代を見通す7つの大胆予測)で紹介した
アニメ「PSYCHO-PASS(サイコパス)」。そのスピンオフ作品。


「サイコパス」はSF&サスペンス。
どんな世界観なのかというと……。

「そのひとが”犯罪に手を染める潜在的な確率”」を計測できるようになった近未来。
治安維持の形態は、かつてとはすっかり様変わりしていて。
スーパーコンピューターのような「シビュラシステム」とドローン(無人機)が、
たえず個人を監視し続け、犯罪の芽を摘んでいる。


以前の記事(『一般意志2.0』vs『「みんなの意見」は案外正しい』vsビッグデータ)ではビッグデータ(※)についてお話しましたが、

※ 従来では考えられなかったような、数・量のデータの集積物のこと。


ビッグデータの収集とAI(人口知能)による未来予測が精度を増し、
「個人を数値化するシステム」が社会インフラになっている世界です。

IOT(Internet of Things。あらゆるモノがネットに接続されている状態を志向する考え方)ですね。
ホントにありそうな未来のカタチ。


☆★☆



『小説 PSYCHO-PASS サイコパス/ゼロ 名前のない怪物』は、アニメ版で繰りかえされつつも詳細を語られることのなかった「標本事件」を描いた物語です。


・頭蓋を切り取られた国会議員の全裸死体。
・ステージ衣装さながらに筋組織を広げ「展示」された少女の遺体。
・シビュラの目の届かない「廃区画」にしのびこむ、女子学生。


錯綜するそれぞれの「線」やがてひとつにつながっていく、
ノンストップでページをめくってしまう、徹夜本



サスペンスの吸引力もすごいのだけど、なにより
この作品の「心理描写」の部分に私はとても惹かれました。

以前の記事(【泣ける】女性作家が描く切ない恋愛小説10冊【沁みる】)で紹介した
有川浩さんの筆づかいをほうふつとさせる感じ。

『塩の街』『図書館戦争』シリーズなど、有川浩さんの初期作品を想いだします。






☆★☆



有川浩さん

「関係性のなかで立ちあがる感情を適確に言葉に置きなおす」作家さん

だとしたら、
本書の高羽彩さん

「感情の流れをとぎれさせずに揺らがせ、変化させていく」書き手……という感じ。


とにかく「心の動きのなめらかさ」がすごいです。


高羽彩さんは小説家ではなく、
ざっくりと言えば演劇関係のひと。
劇団の主宰、脚本、演出、ときには役者もされるそうです。


以前の記事(最近読んだ「発声・演技力をきたえる」本10冊)で紹介した


という本の演技論では
「セリフとセリフの間の感情の流れを断絶させないこと」が強調されていましたが、


『PSYCHO-PASS サイコパス/ゼロ』は、
まさにこの”お芝居の心得”を地でいくように、
相手の挙動に対してどう気持ちが揺らいでいくのか、が描きこまれている。

シナリオライターや劇作家・演出家志望の方が読んだらとても勉強になると思います。
セリフとセリフの間には、ほんとうはこれだけの心の動きがある。


☆★☆



たとえば「第四章 ふたりのおしろ」で
少女が刑事に補導されるシーンがあるのだけど。

反発していたところから、しだいにその刑事を頼るようになっていく過程は
まるで恋愛小説のワンシーンみたいv


それから。
ふたりの刑事……狡噛慎也(こうがみしんや)と佐々山光留(ささやまみつる)という人物がこの物語のキーマンなのですが。

このふたりは立場上の違いから、いつもすれ違っています。
信頼したい気持ちはあるのに、どうしても相棒になりきれない。

それでも、へんなところで相手に弱さを見せてしまったり
必要以上に「立場」を強調してしまったり……。


なんというか、ボーイズラブ(笑)。
BL好きなあなたにも、自信をもってオススメできる小説です♪


「第五章 しょうじきもののおうじさま」から引用します。
決定的なすれ違いをしてしまったあとで、ひとり自省する佐々山。


「二八にもなって、なに年下に甘えてんだ、俺は」
(略)
そうだ、甘えているのだ自分は。
自分の気持ちなんかわかりっこないと当り散らして、親の気をひく子どものように。
(略)
気が引きたかったのだ、狡噛の。そして狡噛であればわかってくれると甘えて傷つけた。



そこに、狡噛があらわれます。


「そんなカッコでいると、風邪引くぞ」
(略)
ジャケットを差し出す狡噛の気迫に、思わず手を伸ばしてハッとする。
「いやっ、いい! いいよ!」
「鼻水たれてるぞ」



差し出されたジャケットを断り、
その場から逃げようとする佐々山。
しかし狡噛は……。


ここで部屋に戻られたらまたいつもの繰り返しだと、狡噛は立ち上がる佐々山に慌てて声をかける。今自分の中に沸き上がる情動を止まらせたくない。
「待て佐々山!」



沸き上がる情動!


その後、二人は佐々山の部屋で初めて……



さて、どうなってしまうのか!?


その後、二人は佐々山の部屋で初めてサシで酒を飲み交わした。



……。
まあ、BL小説ではないので、ここまでです(笑)。
でも、妄想ははかどると思うので、女子のあなたは思う存分腐ってくださいねv



そんなこんなで、今日は


小説版『PSYCHO-PASS<0>』っていう本は
オススメだよぉ☆(*´∇`*)ミ☆



というお話でした。

↓文庫版も出ています♪




ノーリスク・ハイリターンの投資は"読書"♪


あきか(@akika_a


追記)
『小説 PSYCHO-PASS サイコパス (上・下)』もレビューしました↓。

「PSYCHO-PASS(サイコパス)」はノベライズから先に読んでもいいかもしれない


【関連記事】

最近読んだ「未来を予測する」本10冊
2010年代を見通す7つの大胆予測
『一般意志2.0』vs『「みんなの意見」は案外正しい』vsビッグデータ
【泣ける】女性作家が描く切ない恋愛小説10冊【沁みる】
最近読んだ「発声・演技力をきたえる」本10冊
【攻め受け】BL(ボーイズラブ)漫画・小説の定番9冊【リバース】
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2014年10月21日

面白いライトノベル見つけました――土橋真二郎『扉の外』

 
今日のなぞなぞ
「面白いソリッドシチュエーションライトノベルは?」




閉ざされた空間。
謎めいた存在から提示される、一定のルール。
信頼、そして裏切り。
疲弊してゆく精神。
つぎつぎと生まれる、脱落者たち……。


映画『SAW』漫画『LIAR GAME』
小説だと『インシテミル』とか、
そんなソリッドシチュエーションな物語が大好きな私ですが。

今日は、
ライトノベルですっごい面白いソリッドものを見つけたのでご紹介。



ライトノベル最大の新人賞、第13回電撃小説大賞で「金賞」を受賞した『扉の外』です。
土橋真二郎さんのデビュー作。



☆★☆




修学旅行に行くはずだったのに、灰色の閉鎖空間で目を覚ました二年四組の高校生たち。
手首には腕輪がはめられていた。
ソフィアと名乗る謎の存在がここでの「ルール」を説明し、
生徒たちは”配給”をめぐるゲームに巻きこまれてゆく……。


……こんなシチュエーションです。
1巻で展開されるゲームは、
いわゆる「戦略(国取り)ゲーム」

拠点を守りつつ勢力を広げていくような、アレです。


生徒たちは
一定時間ごとに生産されるダイヤを使って、
スペード(偵察や戦闘ができる兵士)やクラブ(食べ物や生活用品に替えることができる)を入手します。


☆★☆




この作品も、例によって
「囚人のジレンマ」がおおきなモチーフになっています。

囚人のジレンマとは、経済学のゲーム理論の用語。
一言でいうと


「協力した方がお互いの利益となるはずなのに
相手の出方がわからない以上、裏切った方が合理的」


である状況
のこと。




警官「お前らふたりの囚人のうち、自白した方を無罪にしてやろう」
囚人A「まじすか!?」
囚人B「心の声(実は俺たち共犯なんだべなぁ)」
警官「ただし、自白しなかった方は懲役10年の刑に処す」

A「ふたりとも自白したらどーするんすか?」
警官「その場合、ふたりとも懲役5年だ」
B「じゃあ、ふたりとも黙っていたら、どうなるんだべ?」
警官「懲役2年ずつでカンベンしてやる。さあ来い、別々の部屋で取り調べるぞ!」



この場合、ふたりの懲役年数の合計がいちばんすくなくなるのは、
両者とも黙っているケース。
でも、囚人Bにとって、Aが自白するかどうかは未知数。

Bは「心の声(Aが自白したら、おら10年もムショ暮らしだわ。Aには悪いけっども、
正直に話しちまうべか〜
)」と考える。

Aもおなじように考えるので、
AもBも自白する……という結果で均衡する。



☆★☆




ちょっとネタバレになるけど
『扉の外』では、物資に直結するダイヤの生産を守るため、
出方がわからない相手から、みずからを守るために


争う

という方向に均衡してしまいます。




国境はなぜできるのか。

とか

どうして戦争が起こるのか。



その原理が、
シンプルに、システマティックに明らかになってゆく。




さらに、おなじ国のなかでも
腕輪をしている者(=配給を受けることができる人)と
腕輪が外れている者(=めぐんでもらうしかない人)との間で
支配被支配という立場の違い、格差もうまれる。


たんにバトルロワイヤルなだけでなく、
「経済」や「社会」の要素がからんでくる
、ものすごい面白い作品でした。


ちなみに、主人公は
目覚めるとすぐ、衝動的に腕輪を外してしまった男の子です。

ルールに飲まれず、ほかの国へも移動できる
「越境者」としてふるまう。
物語上、これがおおきなポイント。



☆★☆




1巻ずつ完結しますが、
本作はぜんぶで3巻あります。



第2巻は「天使・人間・悪魔」からなるカードゲームです。
こちらも配給と腕輪がからみ、1巻より殺伐と……。



3巻はサバイバルゲームです。
といっても、実際に銃で撃ちあうわけではなく、オンライン上。仮想空間です。
配給と腕輪をめぐり、バーチャルな血も流れる。ちょっと百合百合。



以前の記事(碇シンジは夜神月を止められない――宇野常寛『ゼロ年代の想像力』)で紹介した
『ゼロ年代の想像力』は、



ゼロ年代の空気を


決断主義・サヴァイブ系


という言葉で表現していました。まさに『扉の外』も、
生き残りのためにどんどん前に進んでいかなければならない。そんな物語です。

第3巻では、


人間の本質は変わらない。
協調か裏切りか。
そんな人間のコミュニケーションは変化することはない。



という言葉も出てきます。
ほんとに、ゼロ年代らしい小説。


とにかく面白かった。
キャラクターは魅力的ですが、
ライトノベル特有のノリはほとんどないので、
ラノベを読み慣れていない方にもオススメです♪

1日で3冊ぜんぶ読んでしまいました。徹夜本!




ノーリスク・ハイリターンの投資は"読書"♪


あきか
 


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2012年06月05日

絶望に効くクスリ……は存在するか?

  
今日のなぞなぞ
「絶望に効くクスリって本当にあるの?」



絶望の時代に生きるみなさん、こんばんは。


……なんてすごいオープニングをかましておりますが。
今回は、"希望"について、ちょっと一緒に考えてみましょというお話です。



今回取りあげる本は、私の大好きな作家さんの、なかでもとくに大好きな本。
あまりにも好きすぎて、ほんとうは紹介したくない。

自分だけが知っているおいしいラーメン屋。
行列ができちゃうのはいやなので、ホントは誰にも教えたくない。

秘密の宝物。だけど、良書だからやっぱり"シェア"しなきゃダメだよな〜。
……そんな本です。






"絶望に効くクスリ"――そのものズバリなタイトルの、対談漫画です。


山田玲司さんはマンガ家。
手塚治虫を師とあおぎ、エンターテイメントに終始しない"マンガで表現できること"を探り続けていらっしゃる、
ロックでエッジな作家さんです。


初期作品の『Bバージン』や漫画版『ゼブラーマン』が有名かな。






『Bバージン』は80年代バブル期を舞台にした恋愛漫画です。
非モテの生物オタク・住田秋は"大学デビュー"してモテモテに。"童貞の女殺し"となる!
一途に、ひとりの女の子へかなわぬ想いを寄せながら、いろいろな女性に振りまわされていく。

……というコメディタッチの作品なのですが。

後半。
物語は加速し、「ひとりの女を獲得する男の物語」へと変貌していく。
「これはスポ根マンガか!?」と思えるくらい。泥や血の匂いが誌面から漂ってきそうなほど(笑)。
(環境問題に漸近していったり、後半はもう"ラブコメ"という枠ではくくれません)

もうね。終盤に描かれているのは「男のロマン・美学」以外のなにものでもなく。
"桂木ユイ"という女の子と両想いになるまでのお話なのに、相手の女の子はとことん周縁に追いやられて^^;
ひたすら住田秋の人生が描かれていく……。

恋愛風刺的な前半も、ロマン街道まっしぐら(笑)な後半も両方ステキです♪



この『Bバージン』には『完全攻略本』というガイドブックも出ています。
多くのガイドブック本は原作をなぞることに終始しているものが多いと思うのですが。

↓この『完全攻略本』は"占星術"という斬り口で、Bバージンの登場キャラクターを分析しています。
それがとても面白い。
ホロスコープの入門編として、原作を知らなくてもすっと読めてしまうほど、斬新な"攻略本"になっています。
原作と並んで、私のひそかなバイブルです。オススメ♪




☆★☆



さて。
『Bバージン』への愛を語ったところで、話を『絶望に効くクスリ』に戻します。

『絶薬』は山田玲司さんがあらゆる業界のあらゆる人に(そうとしか言いようがない^^:)インタビューをして、
その様子をマンガにする、"対談漫画"です。

インタビュイーはほんとにバラエティに富んでいて……


漫画家・みうらじゅん/タレント・秋山竜次+虻川美穂子/占い師・栗原すみ子/漫画家・井上雄彦/海洋冒険家・白石康次郎/カリスマホスト・七海龍一/逗子市長・長島一由/水中写真家・中村征夫/プロサーファー・木下デヴィッド/文化人類学者・関野吉晴(敬称略)


↑1巻だけでもこんな感じ。


対談相手の"挫折の時代"のお話を聴いたり、"希望の言葉"をもらったりしながら、
今の時代にともる灯りを探していく……という内容です。



ところで、この『絶薬』ですが、
掲載誌「ヤングサンデー」の休刊にともない、vol.15で(ひとまずの)完結となりました。





15巻のラスト。
山田玲司さんは「読者に希望を与えることが、ほんとうにできたのか?」という部分で葛藤し、
ひとつの言葉を残します。

それは……


――あなたは、愛されている――……


というもの。
誰もが誰かに支えられて生きている。
誰かの作ったものを食べ、誰かの作った道を歩いている。


(奇しくも、この"あなたは愛されている""あなたは独りじゃない"というメッセージは、
このブログの以前の記事(「魔法少女まどか☆マギカ」に学ぶ4つの人生訓)で書いた、
私が『まどか☆マギカ』から受けとったテーマのひとつだったりするのですが。
それはさておき。)


私はこの本が好きすぎるので、
愛をもって鞭をペシペシ叩きたい。

なので、言っちゃいます。



"あなたは、愛されている"
――そんな言葉なんて、どうでもいい。




こんなワンフレーズポリティクス(キャッチコピーのようなひと言で政策を表現してしまう政治手法)など、くそくらえです。

『絶薬』がやってきたことの価値は、
こんなワンフレーズでくくれるようなレベルよりも、はるかに高いところにあるだろーと。


希望を探る旅の最後に、誰かに愛されていることを伝える。
……そのことの一定の意味は認めつつ。

もっともっと、高いところに『絶薬』の素晴らしさがある。

私はそう思うんです。



☆★☆



↑冒頭のなぞなぞの答えを示すなら。
私はいちおう"絶望に効くクスリは存在する"と答えます。

この本がそのヒントを示してくれていると思う。
『絶薬』が"絶望に効くクスリ"たりえているのなら、それは


1.さまざまな人間が、異なる価値観・思想で生きていることを示している。

2.個人レベルの絶望を超えた場所に、無数の問題が存在していることを示している。



という2点において、です。


対談本という性質上、(山田玲司さんという個人の編集・バイアスがかかっているとしても)
さまざまな人の異なる考えがそのままゴロンとむき出しにされていることが多い。

なかには矛盾するメッセージなんかもあったりします。

本書でも、たとえば
"自分で選択して生きろ"という主張と"他人のせいにして生きろ"という施策の両方が載っています。

ほかにも。
"最高のサラダを作れ(あなたができる最大限のパフォーマンスを見せろ)""なにもしなくていいんだ"とか。



山田玲司さんは、どちらか一方のメッセージを否定することなどはせず、
"yes"と双方の考え方を受けいれています。

これはべつに山田さんの思考停止なわけではなく。
いろいろなものごとに対して、山田玲司さん(=私たち読者)が複数の思考回路を獲得する過程である、と思うわけです。


そうして、いざ自分の絶望に向かいあったとき、
その絶望が絶対的なものではないという複眼の観方があらわれてくる。

絶望的なできごとに対処するとき、
いくつもの思考回路で処方(=クスリ)を行える可能性がでてくる。



2.も、"じぶんの相対化"という意味ではおなじです。

本書では、山田玲司さんという作家の特性から、
世界の貧困や環境問題にふかく斬りこんでいく回があったりします。


じぶんの外の問題に目が向いてるときって、
意外とじぶんの葛藤を忘れてたりする
んですよね。


"世界にはもっと不幸せなひとがいるんだからガンバレ"とかそういう思考ではなく、
じぶんの辛さを忘れるために、相対化するために、(逃避的に?)個人レベルを超えた社会の問題を考える。

……そういう方法も、あんがい健全なんじゃないかな、と思います。


☆★☆



イルミの奥に屋台done345

ここで。
私はこの本が好きすぎるので、
もっともっと深くツッコんでいきたい///
 のですが。


『絶薬』がある程度、絶望に効くクスリとなることはわかった。
でも、世の中には絶望するヒマもないくらい、深いレベルで希望を失くしているひとがいる。
彼らに『絶薬』のメッセージは届かないんじゃないか?




……具体的には、非正規雇用貧困者・ワーキングプアを想定しています。
『絶薬』連載中にも状況は悪化している。

自立生活サポートセンターもやい・反貧困ネットワークの湯浅誠さんは

"溜めのなさ"

という言葉を使っていたと思いますが。


経済的・精神的に希望をなくしたときに、
そこから抜けだす術をなにも持てずにいる人


……が日本にもたくさんいるわけです。


孤独で貧しくて、困ったときに助けを求められる誰かもおらず、
"あなたは、愛されている"とか言われても、愛してくれている他者の存在なんてまったく感じられない。
(というか、ワーキングプアは構造的に"溜め"がなくっていくライフスタイルになりがちなのですが)


『絶薬』でインタビューされている人たちは、
いろんなジャンルで輝いている文化人ばかり。
いわゆる、知的エリートたち、なんですね。


成功者たちが、"俺らにも絶望の時代があった……"みたいな話をしていても、
だからって希望を持てるわけではない。
すべての人が成功できるわけではないことは、みんな知ってるわけだし。


そもそも、希望のクスリである『絶薬』を手にとる機会すらない。
こういう本があることも知らなければ、
"本のなかに救いがある"という発想を持つことも許されない。



……そういうのが"溜めのなさ"の本質です。

お金が500円あったとしても、本ではなくパンに使うしかない。



告白すると。
私も派遣で肉体労働をしていた時期がありました。

"先が見えない"を通りこして、"先が見えちゃった"と思ってました。
どうみても幸せではないだろーに、"このままでいいし、今は幸せだ"とか思ってました。



仕事場では、10年も20年もずっと単純労働を続けている先輩達がたくさんいるわけです。
彼らと話しながら、"ああ、これはじぶんの10年後、20年後の姿なんだな"とか感じて。

貧乏だったけど、どうしても本だけは読みたかったので、
食費や労働時間(1日休むということは、日給ぶんの収入をまるまる失うことです)を切り詰めて。24時間おなかはグーグー。


筋肉痛で火照った身体。
なんだか、妙に涙もろかったりして。


ちょっと風邪ひいたりすると、
ああ、これで終わりなのかな……なんて。

孤独な人間のもろさ、っていうのはほんとうにすごいものです。


でも、たとえば肉屋のおばちゃんがひき肉を20グラムおまけしてくれた。
うわ、ラッキー。幸せ
というか、こんなちいさなことを幸せと感じられるなんて、私って幸せものだ。
貧乏じゃなくなったら、こんな感性も失われちゃうだろうな。今の状態がいちばんベストなんだ。……みたいにも思ってた。


☆★☆


439


……とここまで想い出話をつらつらと書いてきて、自己解決したのですが。


『絶薬』のメッセージは、貧困者にも届いている!


すくなくとも、ワーキングプア状態だった私には届いてました。
電気を止められても、『絶望に効く薬』だけは買って、読んでいた。
不安なときは、ほんとうにクスリのように、この本を繰りかえしひもといていた。
そのたびに、救われた。


ワーキングプアの本質は"時間貧乏"なことだと私は思います。


本や映画、アート……いろいろな文化に触れる時間とお金の余裕がない。
だからどんどん"溜め"がなくなってしまい、出口がなくなっていく……。


時間の余裕があれば、
1冊の本が、八方ふさがりな状況に光をさしてくれることもあるかもしれないのに。



クスリの効用をもつのは、おそらくこの本だけじゃないと思います。
人それぞれ体質があるので、『絶薬』は効かなかったけど太宰治の小説は効いた、みたいなひともいると思う。

ただ、<病人>がそのクスリに触れる機会を持たなければ、
そのクスリはクスリとしての意味をなさない。


なにもワーキングプアだけじゃありません。
サラリーマンだって、学生だって、家庭の中でだって、
"出口がふさがっている"状態……っていろいろなところにあると思います。



もう抜けだせない……そう思っているときこそ、
しっかりと本を読んでほしい。




私は真摯に、そう思います。


☆★☆


新・絶望に効く薬
新・絶望に効く薬
posted with amazlet at 12.06.05
山田玲司
光文社



さて。
ヤンサン休刊にともない、ひとまず連載を終えた『絶薬』ですが、「FLASH」誌上で"復活"をとげました。
↑単行本にもなってますよ〜♪


ほんとに、希望の本です。中毒必至!
みんなで「薬中」になっちゃいましょ♪



そんなこんなで、
いつもの言葉で締め。
おなじフレーズだけど、今日はいつもより重みがあるかな。



ノーリスク・ハイリターンの投資は"読書"♪


あきか(@akika_a


追記)
↓電子書籍(Kindle)版もリリースされました♪





【関連記事】

「魔法少女まどか☆マギカ」に学ぶ4つの人生訓

【付録】

関連リンク

絶望に効く薬<山田玲司>公式サイト
http://www.zetsuyaku.net/
山田玲司 (yamadareiji) Twitterアカウント
https://twitter.com/#!/yamadareiji
『絶望に効くクスリ』(mixiコミュニティ)
http://mixi.jp/view_community.pl?id=247371


『絶望に効くクスリ』Vol.1〜15 対談者一覧



山田玲司(漫画家)/みうらじゅん(漫画家)/秋山竜次・虻川美穂子(「はねるのトびら」メンバー)/栗原すみ子(占い師「新宿の母」)/井上雄彦(漫画家)/白石康次郎(海洋冒険家)/七海龍一(カリスマホスト)/長島一由(逗子市長)/中村征夫(水中写真家)/木下デヴィット(プロサーファー)/関野吉晴(文化人類学者「グレートジャーニー」)


忌野清志郎(バンドマン)/宮藤官九郎(脚本家/俳優)/坂本洋子(里親)/木村雅史(グリーンピース・ジャパン元事務局長)/田邉亜紀子(アクセサリー・デザイナー)/花輪壽彦(北里研究所東洋医学総合研究所)/町田康(作家/詩人/歌手)/林巧(小説家)/荒俣宏(作家/翻訳家/博物学研究家)


城彰二(サッカー元日本代表)/佐藤未光(医師/同性間性的接触によるHIV感染予防に関する啓発センターakta代表)/五味太郎(絵本作家)/さかなクン(魚業界ポップスター&イラストレーター)/加藤登紀子(歌手)/伊藤嘉明(日本コカ・コーラ株式会社元環境経営グループ部長)/玄侑宗久(禅僧/作家)/畑村洋太郎(失敗学会会長/東京大学名誉教授)/日高正博(スマッシュ代表)


糸井重里(コピーライター)/岩瀬公一(文部科学省宇宙開発利用課長)/沖田耕一(宇宙航空研究開発機構勤務)/今宮純(モータースポーツ・ジャーナリスト)/小黒一三(『ソトコト』編集長)/寺門琢己(整体師)/大西健丞(ピース ウィンズ・ジャパン統括責任者)/哀川翔(役者)/岸裕司(秋津コミュニティ顧問)/水木しげる(漫画家)


富野由悠季(アニメーション監督/作詞家/小説家)/西原由記子(自殺防止センター創設者)/千葉麗子(チェリーベイブ社長/ヨーガインストラクター)/森毅(数学者/哲学者)/伊東明(心理学者/東京心理コンサルティング代表)/渡部陽一(戦場カメラマン)/辻元清美(衆議院議員/NPOコーディネーター)/佐藤琢磨(F1ドライバー)/重松清(作家)/押川剛(コンビンサー/トキワ精神保健事務所代表)/ブル・デービッド(木版画家)


河合隼雄(臨床心理学者/文化庁長官)/よしもとばなな(作家)/下村実(海遊館飼育展示部係長)/程一彦(料理研究家)/K DUB SHINE(MC(ラッパー))/てんつくマン(軌保博光改め、映画監督/路上詩人)/辻井喬(堤清二、詩人/作家)/三田智子(1998,2000年NFLダラスカウボーイズ・チアリーダー)/永田照喜治(永田農法創始者)


ボビー・バレンタイン(千葉ロッテマリーンズ監督)/大槻ケンヂ(ミュージシャン/作家)/小山内美江子(脚本家)/C・W・ニコル(作家/冒険家)/藤村靖之(発明家)/レシャード・カレッド(医師)/寺脇研(文部科学省大臣官房広報調整官)/飯島博(NPOアサザ基金代表理事)/山田バウ(OPEN JAPAN代表)


オノ・ヨーコ(前衛アーティスト)/エリコ・ロウ(ジャーナリスト/作家/翻訳家)/西きょうじ(カリスマ予備校教師)/李禹煥(現代美術作家)/タケカワユキヒデ(シンガーソングライター)/高樹沙耶(女優)/蟹江雅彦(元国際連合世界食糧計画WFP協会専務理事)/芳賀洋一(東北大学先進医工学研究機構)/木村浩一郎(デザイナー)


ほっしゃん。(お笑いタレント)/角川春樹(出版社特別顧問/映画プロデューサー)/高見映(俳優/作家)/高城剛(映像作家/ハイパーメディア・クリエイター)/岡田斗司夫(評論家/作家)/高木ブー(ミュージシャン/タレント)/草間吉夫(大学講師/茨城県高萩市長)/高木善之(NPO法人ネットワーク「地球村」代表)


養老孟司(解剖学者)/土屋敏男(T部長)(日本テレビ)/アキコ・カンダ(ダンサー/振付家)/猪瀬直樹(作家)/宮城まり子(作家)/野村義男(ギタリスト)/伊勢華子(文筆家)/舘野泉(ピアニスト)


手塚眞(ヴィジュアリスト)/林達雄(医師/アフリカ日本協議会代表)/ケラリーノ・サンドロヴィッチ(劇作家・演出家・ミュージシャン)/団鬼六(作家)/古居みずえ(フォト・ジャーナリスト)/オリバー・ストーン(映画監督)/吉田恵美子(海女)/三池崇史(映画監督)/登川誠仁(ミュージシャン)


山本寛斎(デザイナー/プロデューサー)
♪鳥くん(野鳥研究家/シンガーソングライター)/フィリップ・ドゥクフレ(演出・振付家/ダンサー)/山本譲司(福祉活動家/元衆議院議員)/ジョージさん・つねさん(コラムニスト)/竹内久美子(動物行動学研究家/エッセイスト)/酒井雄哉(天台宗大阿闍梨/権大僧正)


大橋マキ(アロマセラビスト)/古澤巌(ヴァイオリニスト)/上田誠仁(山梨学院大学教授・陸上競技部監督)/平野悠(LOFT PROJECT代表)/柳美里(作家)/太田光代(タイタン代表取締役)/瀬戸内寂聴(作家/僧侶)


加藤健二(元ホテルマン)/金井重(旅人)/鮎川誠(シーナ&ザ・ロケッツリーダー/ギタリスト)/山田真哉(公認会計士)/山下洋輔(ジャズピアニスト/作曲家)/ニール・ゲイマン(SF作家/脚本家)/前川真悟(かりゆし58ヴォーカル・ベース)/田中優(未来バンク事業組合理事長)


紀藤正樹(弁護士)/須藤元気(作家/元総合格闘家)/島田陽子(女優)/堀井雄二(ゲームデザイナー)/趙治勲(囲碁プロ棋士)/フィリップ・ジャンティ・カンパニー(パフォーマンス・グループ)/ルネ・ヴァン・ダール・ワタナベ(占星術師)/杉本脩子(NPO法人全国自死遺族総合支援センター代表)/雨宮処凛(作家)/ちばてつや(漫画家)/江守正多(国立環境研究所地球環境研究センター温暖化リスク評価研究室室長)/元ちとせ(歌手)/ジャネット・リー・ケアリー(作家)/森達也(作家/映画監督)/井田茂(惑星科学者)/枝廣淳子(環境ジャーナリスト/翻訳家)/吉俣良(作曲家)/加藤大基(医師)/フランク・マーシャル(映画プロデューサー/監督)/キャスリーン・ケネディ(映画プロデューサー)/ひろさちや(宗教評論家)/シャーリーズ・セロン(女優)/太田光(お笑いタレント)
 

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