
今日は日本の見世物や興行、芸能界にまつわる10冊を紹介していきます。
前半は、古代からその原形があるという”見世物”と”興行師”の歴史を。
後半は、”現代の興行”です。寄席、歌舞伎、宝塚歌劇、ジャニーズ、インディーズ(地下)アイドルの5つ。
……なんだかバラバラでまとまりのない印象かもしれませんが、どれもが深くつながっているともいえる。
見世物研究の大家、朝倉無聲は言います。
(↓文中の「之(これ)」は、見世物のことね)
観覧料を徴収して公衆に縦覧せしむるのを云ふ、されば若し之を広義に解すれば、能楽演劇相撲等の諸興行物は、総て見世物の一種類なりと云うを憚らず『見世物研究 姉妹編』「見世物年代記」より
なにが人々のまなざしを集めてきたのか。
昔と今の”沼”にまつわる10冊をど〜ぞ♪
見世物研究の第一人者
「見世物探偵」こと川添裕さんが、興味のおもむくままに各地に足をはこぶ紀行エッセイ。
川添裕(古谷祐司)さんは、「見世物文化研究所」という団体の代表。
江戸の見世物の研究を主として、演劇やさまざまな文化史に造詣のふかい、”この分野”の第一人者です。
本書が紹介する見世物のジャンルは……
中国雑技、菊人形、象、水上人形(水傀儡)、力持、曲馬、水芸、口上、つくりもの、サーカス、足芸、貝細工、大道芸、猛獣など。
日本だけでなく海外もめぐり、川や塔、島など景観そのものを”見世物”としてとらえる自由な語りが素敵ですv
冒頭のカラーをはじめ、写真資料も楽しい1冊。個人的には、「ベトナム水上人形」のあやしさ満点なたたずまいがツボです。キモいのすき。
空前絶後の研究書
見世物の研究書。原本はレアな専門書だけど、ちくま学芸文庫としても上梓されているので手に取りやすい。
聴いたこともないような資料を大量にひいて、見世物興行の歴史を余すところなく概説していく、とんでもない労作です。
技術、奇物、細工の3つに分けて、具体的な見世物をみていきます。
技術は、手品や話芸、軽業、人形使いなど、ワザをみせるもの。
奇物は、動物や草、木、石、人(!)など、ちょっと変わったものをみせます。
細工は、アート作品です。
図版の資料も掲載されているのでイメージがわきやすい。
復刻にあたり末尾に収録された守屋毅さんの解題が、本書の価値を端的に言いあらわしています。
発行以来半世紀近く経た今日に至るも、なお他に類を見ない、当該分野唯一の概説書であり、その完備した構想と資料の充実に接するならば、今後に及んでも、この水準を抜く研究の出現は、容易に期待できぬ「『見世物研究』解題」より
ちなみに、本書には↓「姉妹篇」があります。
朝倉無聲がのこした59篇の文章を収録。大道芸、物売りなど見世物の”周辺”にまつわる論考も掲載されています。『見世物研究』には未収録の原稿ばかりです。
「見世物年代記」や「見世物版画年表」など、ここにしかない貴重な資料目録は圧巻。
こちらは編者である川添裕さんが解説を書かれています。↑で紹介した”見世物探偵”。
この解説でもさまざまな文献が紹介されており、見世物を中心とした庶民文化や演劇研究のブックガイドとして参考になります。
小説で描かれる見世物のセカイ
もう1冊、見世物関連を。こんどは小説です。
本所両国界隈の”見世物小屋”や”岡場所(私娼窟)”が舞台。怪しく妖しい、江戸怪談を描く、短編連作形式の時代小説。
主人公は遊び人の萬女蔵(まめぞう)。彼は香具師のような仕事もしています。萬女蔵が女を買ったり、見世物を興したりするなかで出逢うのは、この世のものだけとはかぎらない……。
ところどころに七五調の文章をはさむ文体。リズム感が心地いい。
まるでこの本自体が見世物の口上であるかのような、粋な演出です。
見世物や岡場所が細かく描きこまれていて、江戸の下町にタイムスリップした気分。
あやしくてうさんくさい見世物がたくさん登場します。
色町の物語ということで、色っぽいのが好きなひとにもオススメ。///
本書の参考文献2冊を私的メモ↓(上で紹介した『見世物研究』も挙がっていました♪)
『大江戸岡場所細見』江戸の性を考える会 三一書房
『見世物研究』 朝倉無声 ちくま学芸文庫
松竹、吉本、大映、東宝
歌舞伎、喜劇、ミュージカル、映画……。芸能や興行の歴史を5人の”興行師”の人生を通じて紹介する入門書です。
その5人とは……
- 十二代目 守田勘弥(新富座、近代興行の父)
- 大谷竹次郎(松竹)
- 吉本せい(吉本興業)
- 永田雅一(大映)
- 小林一三(東宝)
まさに現在につらなる歴史。錚々たる顔ぶれの創業者たちの苦労話や成功譚がのぞけます。
明治から昭和にかけて、あやしげだった興行は近代的なビジネスとなっていく。
ノンフィクションの新書ではありますが、ところどころ物語風の文体で書かれていて、お芝居を観ている感覚で読める良書です。
☆★☆
ここからは、現代の興行を具体的にみていきます。
ジャンルは……寄席、歌舞伎、宝塚歌劇、ジャニーズ、インディーズ(地下)アイドルの5つ。
ハマれば底のない、沼地へようこそ。
寄席・演芸
演芸雑誌「東京かわら版」の編集長さんが、寄席の魅力をたっぷり紹介。
イラストがたっぷりの寄席入門書です。
基本的な知識から、建物や場内の構造、見どころ、用語、歴史を図解つきで解説。
有名な4劇場(鈴本演芸場・浅草演芸ホール・池袋演芸場・国立演芸場)のイラストは、写真とは違った味わいがありますv
紙切りやコントなど、色物にももちろんふれています。
末尾では噺家、芸人さん46名の紹介。寄席でよくかかる古典落語50コのあらすじ解説も。
大物芸人のインタビューまで収録した、豪華すぎる寄席ガイド。読めばぜったいに行きたくなる!
歌舞伎
花形役者さんへのインタビュー、コミックエッセイ、名作のダイジェストや登場人物紹介。
歌舞伎を描いたマンガや小説のリスト、久生十蘭や江戸川乱歩の随筆も収録。
いわゆる入門書とは方向性がちょっと違う構成です。
基礎的な知識の解説というより、歌舞伎にまつわるトピックをさまざまな角度でとりあげていく。バラエティゆたかなつくりです。
「どんな入り口からでもいいから、歌舞伎を観てみてよぉ〜」と全力でお誘いしてくれる本。
紗久楽さわさんのイラストもかわいくて素敵です。
タイトルは「乙女のための〜」ですが、そこまで乙女色が強いわけではありません。誰が読んでも楽しめます。
関連本の紹介がたくさん。芋づる式にほかの本へとアクセスできる、ブックガイドともなる1冊です。当ブログ的にもオススメv
宝塚歌劇
100年を超える歴史をもち、圧倒的な集客力をほこる宝塚歌劇。
その盤石さのヒミツを、ビジネスモデルやファン、コンテンツの分析をとおしてあきらかにしていきます。
5つの”謎”が提示され、森下信雄さんなりの答えが明確に示されます。
その5つとは……
謎その1 小林一三、偶然の物語〜なぜ「宝塚」で「歌劇」だったのか
謎その2 「何でも自前主義」の効用〜なぜ、宝塚歌劇は孤高の存在なのか
謎その3 なぜ「ロングラン」しないのか〜「ボロ儲け」しない本当の理由
謎その4 「どこでもファン」の謎〜なぜ繰り返し見るのか
謎その5 「ファンクラブ」の真実〜タカラヅカの力の源泉
タカラヅカの裏側までじっくり知ることができる本。演劇研究というよりも完全にビジネス書寄りの新書です。
終盤ではタカラヅカの、スターが育っていくモデルを「未完成マネジメント」として、住宅や家電業界にまで広げて語っています。
エンターテイメントだけでなく、新時代のビジネス全般のヒントが詰まった1冊。
タカラヅカ
もう1冊、タカラヅカを。
ひるがえってこちらは、とことんファンの気持ちを描いた漫画です。
人が集まる場所が好きではなく、長く座っているのもニガテな女の子が宝塚歌劇と出逢ってしまう物語。
後半は、作者の細川貂々さん自身の宝塚遍歴を語ったコミックエッセイ。
沼にどっぷりハマっていく過程が細部にわたって描かれています。
3日間の5公演を、まるで修行のように全部観にいったり。観劇好きなら、宝塚のファンでなくても共感できる描写がたくさん。
好きなものがあるのは幸せだ。
理知的な↑『タカラヅカの謎』ではみえなかった、”幸福すぎる”ファンの想いを追体験してみて♪
以前の記事(心の時代を生きるための本10冊)で紹介した↓『浪費図鑑』とセットでどうぞv
ジャニーズ
”努力”を斬り口に、ジャニーズがスターを生み続ける仕組みについて考えていきます。
前半は、現役で活躍する16人を、エピソードやテレビ、雑誌等のコメントとともに紹介。その16人は……
(敬称略)
中居正広、木村拓哉、長瀬智也、国分太一、岡田准一、井ノ原快彦、堂本剛、堂本光一、櫻井翔、大野智、滝沢秀明、風間俊介、村上信五、亀梨和也、伊野尾慧、中島健人
ひと口にジャニーズといっても、それぞれが全然”別の道”を歩んでいることに驚く。仕事への向き合い方もさまざまで興味ぶかい。
後半は、著者・霜田明寛さんの総論。そしてジャニー喜多川さんの”才能を育てる力”について迫っていきます。
ショービジネスだけでなく、仕事や人生全般に通じるヒントが満載。「ゴシップ抜きのジャニーズ論」です。
インディーズ(地下)アイドル
ラストは地下アイドルとも呼ばれる、インディーズアイドルの概論です。
これまでみてきた「興行」とは異なる論理が走っているのがこのジャンルかもしれません。
著者の姫乃たまさんは、地下アイドルでありライターでもある方。
インディーズアイドルとファンの実態を、アンケートを通して深掘りし、その”心のカタチ”をあぶりだしていきます。
”一般の若者”に対するアンケート結果と並置して地下アイドル業界の精神性をみていく。
ジャーナリスティックな手つきもさることながら、著者の実体験からくる言葉もとても強い。
客観、主観の両面から地下アイドルの世界にふれられる良書です。
姫乃たまさんは言います。
地下アイドルの世界は、誰かが自分にも居場所があることを確認するために存在しています。「プロローグ」より
地下アイドルの女の子も、そのファンの人たちも、生活するための居場所が確保された現代の中で、高次元な欲求を満たすために、精神的な居場所を探している人たちです。「第四章 地下アイドルたちの精神と生活」より
ライブの現場では、アイドル側の承認欲求と、認知(アイドルに顔や名前をおぼえてもらうこと)を求めるファンがたがいを満たしあっていると分析。
独特の祝祭空間。
集客数や興行収入ではけっして語れない、”深度のふかい”世界が素描されています。
ノーリスク・ハイリターンの投資は"読書"♪
あきか(@akika_a)
(冒頭の写真は浅草西参道のお祭り商店街です)
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