2020年09月30日

「生物学」が本格的で面白いSF小説と映画10コ


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ミトコンドリア。線虫。創薬、超人類。恐竜。体外受精。
ゲノム編集(デザイナーベイビー)。人工生命。進化。外来種。人体。



今日は「本格的な生物学が楽しい物語」たちを紹介していきます。

前半は小説、後半は映画。
SFを中心に、ぜんぶで10作品。

↑冒頭に並んだ単語は、
10作品がそれぞれ取りあつかっているテーマです。

鋭いあなたは、これだけでどの本/映画か見当がついたかも?


古生物から未来のバイオテクノロジーまで、
生命の科学が素敵な10作品
をど〜ぞ♪



 ミトコンドリア


事故で愛する妻を失った生化学者、利明。
彼は妻の肝細胞を培養し、”Eve1”と名づける。
”Eve1”と、ある患者に移植された妻の”腎臓”とが「たくらむ」新たな世界は……。

制限酵素。ヌードマウス。ノザンブロット……。
以前の記事(最近読んだ「遺伝学・分子生物学・進化論」の本10冊)でとりあげた本に出てきたような生物学の用語がたっぷり。
ストーリー展開もさることながら、”科学的な記述”も同時に楽しめる名作です。

その「共生」は、ほんとうに相利(たがいに利益を得る共生関係)なのか。
後半はダイナミックなホラーへと展開していていき、さらに目が離せなくなる。
人類の”進化の歴史”を考えさせられる題材です。ドーキンスの『利己的な遺伝子』が好きなひとにもオススメv

 線虫


本書が”生物学に関係ある”と言ってしまうこと自体がある意味ネタバレなのですが……すみません><

アマゾンから帰ってきた恋人は、性格が豹変していた。
病的なタナトフォビア(死恐怖症)だったはずのその恋人は、やがて魅せられたように自殺を選ぶ。
いったい、密林でなにがあったのか……。

ホラー? オカルト? SF? それとも、現実の世界にもある感染症?
序盤、物語がどちらに転ぶかまったくわからない感じは、以前の記事(【徹夜本】地下東京に広がる腐海――貴志祐介『新世界より』の社会システムと生態系がすごい)で紹介した、おなじ貴志祐介さんの『新世界より』をほうふつとさせます。

ちなみに『新世界より』も、生物学ファンにオススメです♪
ボノボやハダカデバネズミの生態が援用されていたり、架空の生物の”食物連鎖”が描かれていて楽しいv

『天使の囀り』も専門性が高く、たとえば「その寄生者が宿主の情動をあやつる方法」などがしっかりと説明されていて、納得感があります。
説得力ゆえ、ホントにこんな生物がいそう……と背すじがぞわぞわしてくる。

終盤にとてもおぞましいシーンがあります。キモいのがニガテな方は注意。
ゾンビアリとかロイコクロリディウムとかトキソプラズマとかハリガネムシが好きなひとにオススメです☆

 創薬、超人類



「人類滅亡の可能性 アフリカに新種の生物出現」。
ホワイトハウスに届いた不可解な報告から、物語は幕をあけます。

薬学を専攻する日本人大学生・研人。
彼は難病の特効薬の開発を亡き父から継承する。ほとんど”無理難題”ともいえる課題を助けるのは、やさしい韓国人と、「GIFT」という”人智を超えた”創薬ソフトだった……。

一方、難病の息子をもつアメリカ人傭兵・イエーガーは突如、極秘のミッションを与えられる。
コンゴのジャングルにおもむき、現地のピグミー族と人類学者を抹殺しろ、と。
結成されたチームが森のなかで見たものは……。

ホワイトハウス、日本、コンゴを舞台に展開する壮大なストーリー。
コンピュータを用いた創薬が細部にわたって描かれます。さらに、生物学の本丸ともいえる「進化」もモチーフに。

以前の記事(ぜんぶAIが決めてくれる世界ってどう思う?〜人工知能社会での「選択」と「自由」を考える本10冊)で紹介した『スーパーインテリジェンス』が問題としているような、現生人類とはまったく異質なレベルの知性を扱っています。

本書が提示するの超知能の概説が面白かったのでメモ。

第四次元の理解、複雑な全体をとっさに把握すること、第六感の獲得、無限に発展した道徳意識の保有、特に我々の悟性には不可解な精神的特質の所有
「第一部 ハイズマン・レポート」より


この「超知性」はRSA暗号を解き、空気抵抗を受けた葉っぱの落下地点すら予測してしまう。

圧倒的なリアリティがつむぎだす、超本格エンターテイメント。
未読のあなたは幸せ。これから読めるから。めっちゃオススメですv
(私信×2。読みました♪ まさにイッキ読みできる濃厚なエンターテイメント。ディテールの緻密さにシビレました)


 恐竜



みんな大好きジュラシックパーク♪ 小説版のほうです。
古生物をいかに現代に再生させるか……ファミリーで楽しめる映画の印象とはうってかわって、原作では緻密な空想科学が構築されています。ハードSFと呼んでもいいくらい。

化石化したコハクに閉じこめられた「血液を吸う虫」の体内から”恐竜の血”を採取

DNAを抽出、解析。欠落している部分を現存の生物の塩基でおぎなう

完成した”恐竜のDNA”を、現存生物(ワニ)の未受精卵に注入し、孵化させる

恐竜のつくりかたはこんな感じ。
欠落をおぎなうために使った”現存生物のDNA”が、後半の展開のカギとなってきます。

古生物や遺伝学、コンピューターについてのうんちくもさることながら、カオス理論を信奉する数学者マルカムの、科学や社会全般に対する思想も読みどころ。
映画とはちょっと違う「ジュラシックパーク」の世界にようこそv

 体外受精


以前の記事(ぜんぶAIが決めてくれる世界ってどう思う?〜人工知能社会での「選択」と「自由」を考える本10冊)で紹介した『一九八四年』と並ぶ、ディストピア小説の名作。
大森望さんの新訳です。
(旧訳はこちら→ 黒原敏行さん訳 松村達雄さん訳

受精卵がビンで培養され、人間が工業製品のように計画的に「生産」される世界。
人は5つの階級に分かれ、性格や物事の感じ方を「条件づけ」されて生まれてくる。
合法ドラッグやフリーセックスを楽しみ、誰もが「幸福」な人生を送っている……。

この”理想の世界”に疑問を持なげかける人物たちを描く群像劇です。

大勢でエクスタシーをあじわう合唱会「連帯のおつとめ(ソリダリティー・サーヴィス)」
合法、しかも接種を推奨されているドラッグ「ソーマ」
4Dシアターの進化形「感覚映画(フィーリー)」
みなが信奉する神はなんと、大量生産の象徴「フォード」

……など、とにかく設定がぶっとんでいて、異様な世界が広がっています。

なかでも図抜けてはっちゃけているのが「ボカノフスキー処置」
ひとつの受精卵から、ふたご、みつご……を生み出す方法です。

ボカノフスキー処置された受精卵は、芽吹き、増殖し、分裂する。一個の受精卵が八個から九十六個の新芽に分かれ、それぞれが完全な胎児になり、それぞれの胎児が一人前の人間に成長する。
「第1章」より


おそ松さんもびっくりの”九十六つ子”!

極端な設定が、「人間にとって幸福とは何か」をいやおうなく問いかけてくる。
『フランケンシュタイン』『モロー博士の島』と同様、生物学系の本でよく言及されている1冊です。

関連記事:
最近読んだ「未来の社会・経済を予測する」本10冊
最近読んだ「幸せについて考える」本10冊〜三大幸福論を中心に〜
心の時代を生きるための本10冊





☆★☆



ここからは生物学がスゴい映画。
……の前に、1冊だけオマケで本の紹介を。


発生学を専門とする若原正己教授が、「生物学」の視点から映画を鑑賞。

「ゴッドファーザー」ウマ
「マグノリア」カエル
「ニュー・シネマ・パラダイス」シラミ……。

哺乳類・哺乳類以外の脊椎動物・無脊椎動物に分けて、映画のなかの多様な動物たちを「観察」していきます。
”生物がテーマの映画”を紹介しているわけではなくて、”名画に登場する動物”をひとつひとつ見ていく感じです。SFではなくドラマ作品が中心。
さりげなく出てくる昆虫にも目を光らせていて、ユニーク。

登場する映画はぜんぶで211本!
紹介の仕方が上手で、観たい映画がどんどん増えてしまう。良質な案内本です♪


 ゲノム編集(デザイナーベイビー)


GATTACA……まるでDNAの塩基配列のようなタイトルのこの映画。
まさに”遺伝子”がテーマです。

生まれる前に遺伝子操作をしてから出産する、いわゆるデザイナーベイビーがあたりまえになっている未来の世界が舞台。
主人公ヴィンセントは、操作のない”自然のまま”の「不適正者」として生まれてしまった。
彼には、宇宙飛行士になりたいという夢があったが……。

遺伝子による格差。差別。犯罪捜査。
未来には本当にあるかもしれない”社会問題”を描いていて、ふかく考えさせられます。

↓ヴィンセントのせりふ。

この世は不可能なことばかりだと思うか? そうじゃない
欠点をさがすことばかりに必死になってるから、本当のところが見えなくなるんだ
(中略)
可能性はあるんだ


以前の記事(【遺伝と環境】行動遺伝学を学びたい人のための19冊【生まれか育ちか】)で見てきたように、遺伝子はいともカンタンに差別や偏見と結びついてしまう。
でも、おなじ記事で紹介した本たちがあきらかにしてきたように、遺伝子は「制限」ではなく「可能性」だ。

生物学系の本でもよく言及されている名作映画です。
SF設定のなかで「人間」を描いている……という意味では「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」が好きなひとにもオススメ。

 人工生命


科学者の夫婦クライヴとエルサは、”新たな種”を生み出す実験に成功した。
ヒトと動物双方の遺伝子をふくむその生物に、ふたりは「ドレン」と名前をつける。
ときに”人間”らしい表情を見せるドレン。子供をもたないクライヴとエルサは、しだいに”育児”にのめりこんでいくが……。

登場するのは「遺伝子を編集した既存の生物」ではなく、「まったくの新種」。
ドレンとはべつに、ジンジャーとフレッドという異形の生命体もでてくるのですが、こちらの造形もすごいです。きもい。

でね。
倫理的にちょっとヤバいこの技術。じつはフィクションの世界だけの話ではなく、”合成生物学”の分野で、すでに実在しているそうです。
……事実も小説もどっちも奇なり。

「人がみずからつくり出してしまった怪物」というモチーフは、「ミミック」「スピーシーズ」、古くは「フランケンシュタイン」など、ホラーやSFでは定番ジャンル。

育っていくドレンの”かわいらしさ”を、あなたはどう考える?
根源的なおぞましさをふくんだ、王道エンターテイメント。

 進化


砂漠に落下した隕石に付着していたのは、ものすごい勢いで”進化”をとげる単細胞生物だった……!

「2億年ぶんの進化がわずか数時間で起こってる」
「そりゃ早い」


生物学者アイラと地質学者ハリーのかけあいが笑える、コメディSFです。

トンデモといえばトンデモ設定だけど、いまもっともホットな「宇宙生物学」につながる題材かも?
生物の進化はわりと”なんでもアリ”なところがあるので。
たとえば未知の生命体が地球の環境に”適応”した場合、想像をはるかにこえる事態が起こってもぜんぜんおかしくない。

「地球生物が20億年かけた進化を2日でとげた」
「ああ、これぞまさにアメリカンドリームの見本だ」


……アメリカンドリームなの!?
意図されたチープさがひたすら楽しいB級SFですv

 外来種


SFでもフィクションでもないけれど……。
アフリカのビクトリア湖周辺の実情を描いたドキュメンタリー映画です。

外来種の「ナイルパーチ」が大量に殖えてしまったため、湖の在来の生態系は壊滅状態。
ところがこのナイルパーチは、巨大な食用魚として、湖畔の町に「仕事」をもたらしている。
漁師、加工工場の作業員、研究所の警備員、航空機のパイロット、その相手をする売春婦……。

ナイルパーチをヨーロッパへ運ぶ飛行機は、
「”行き”には何も載せず、空っぽで飛んでくる」と人は言うが、じつは……。

外来種がきっかけではありますが、メインテーマは生物学ではなく人間の社会です。
大量の食糧を漁獲する街には、ストリートチルドレンがたくさんいて、飢餓や薬物依存がおこっている。

you're part of the big system
(あなたは大きなシステムの一部だ)


社会性動物であるヒトがつくりだす、いびつなセカイ。
まだ観ていない方はぜひ。

 人体


脳出血を起こした博士を救うべく、チームが結成された。
彼らの使命は、ミクロ化した潜水艇に乗り、人体の内部から”手術”をおこなうこと。
血管に注入された潜水艇に襲いかかるのは……数々のトラブル。
はたして彼らは、60分の制限時間のあいだに無事帰還することができるのか!?

動脈、静脈、肺胞、内耳、脳。
内側からみる人体は幻想的で美しくて、いつまでも血管の”迷路”をさまよっていたくなるほどです。
わずかな空気の流れが「嵐」だったり、外の世界でのわずかな「音」が致命的な振動をもたらしたり、ディテールがほんとに面白い。
潜水艇は身体にとって「異物」なので免疫細胞に襲われちゃうシーンなんかもあります。

公開はなんと……1966年! いつまでも色あせない古典的名作SF映画ですv
「はたらく細胞」とセットでど〜ぞ♪





ノーリスク・ハイリターンの投資は"読書"♪

あきか(@akika_a

(冒頭の写真は蓼科高原のバラクライングリッシュガーデンで撮ったアマガエルです。どこにいるかわかりました?)

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posted by 姉崎あきか at 00:24| 10冊シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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