2019年08月29日

あなたの盲点をあばく「叙述トリックミステリ」10冊


今日のなぞなぞ
「叙述トリック小説のおすすめベスト10は?」

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「叙述トリック」が仕掛けられたミステリ10冊をまとめました。


叙述トリックとは……

ある要素を意図的に”語らない”ことで読み手のミスリードをさそう、ミステリの手法です。

通常の物理トリックやアリバイ偽装などとは異なり、「プロット(構成)」や「文章そのもの」に仕掛けられる、小説ならではの方法ですが、映像作品やマンガでも叙述トリック的などんでん返しがみられることがあります(後述)。



人の脳は、足りない情報を勝手に補完する。
私たちは補完したことに気づかず、「すべて見えている」と思いこむ。
その視界には、ほんとうは「盲点」がある……。


日本の推理小説のなかから、
”面白さ”と”驚き度”を基準にセレクト。

あなたの先入観に狙いをさだめ、固定観念を撃ちぬく、
巧みなミステリ達をど〜ぞ〜♪


※ 犯人やトリック等、ネタバレには配慮していますが、叙述トリック小説は「叙述トリックが仕掛けられている」と事前に知ってしまうこと自体がネタバレともいえます。
この意味での”ネタバレ”を避けたい方は、じゅうぶんにご注意くださいね。※




 第10位


ある夏の日、ミチオは小学校の友人S君が首を吊って死んでいるのを目撃してしまう。
彼の”死体消失の謎”をめぐって、ミチオと妹とS君は調査をはじめる……。

……あれ。死んだはずのS君が調査に?
じつは、この物語には「生まれ変わり」があります。S君はクモの姿に転生して、喋ったり推理したりしている。
理を超えた世界が情感たっぷりに描かれる幻想的な小説。とはいえミステリとしての”ロジック”がおろそかにされているわけではないのでご安心を。

終盤は「これでもか!」というくらい固定観念をくつがえしまくる展開です。
夏の終わりに読みたい1冊♪

 第9位


元私立探偵の主人公はある日、地下鉄で自殺をしようとしていた女性を助ける。
およそ一週間後、フィットネス仲間から依頼されたのは……詐欺まがいの商品を売りつけ、保険金殺人にも関わっている可能性のある、悪徳な会社の調査だった。

叙述トリックとは別におおきなどんでん返しも仕掛けられています。二度驚かされる終盤はイッキ読み必至。
ひと昔前の本ですが現在にも通じる〇〇〇(ネタバレになってしまうので伏せ字><)の問題が描かれていて、社会派ミステリでもあります。

 第8位


孤島に集まった男女を襲う、不可解な失踪と殺人事件。
犯人当てでもトリック当てでもなく、史上初の「タイトル当て」小説です。

エロミス、いやバカミスといってもいいかも。でもえっちシーンすら周到な伏線になっている、本格的なミステリ。
これはなかなか気づけない。叙述トリックはいつも<思考の外>からやってくる不意打ちだ。

 第7位


函館にひっそりと建つ洋館。母が亡くなり、父も病におかされた。
「わたし」は、継母やその娘たちの、遺産相続をめぐる不穏な空気に巻きこまれていく……。

シンデレラを下敷きにした、情感たっぷりの継子譚です。
「独白」「手記」「手紙」の3つからなる構成。鋭いひとは早くに仕掛けを見抜けるかも?
宝石や絵画、ティアラ、水妖(ウンディーネ)など小道具や、文章の雰囲気がとても美しくて素敵な小説です。

 第6位


そのサイコ・キラーは、次々と女性たちを残虐に殺していく……。
犯行のシーンがけっこうエグいのでご注意を。凄惨な場面が多いけれど、怖いものみたさでページをめくる手がとまらなくなります。

周到にはりめぐらされたミスリードに、あなたは必ずだまされる。
叙述トリックの仕掛け自体に問題提起がふくまれているともいえる、本格&社会派ミステリです。

 第5位


主人公は「ハサミ男」。女性をターゲットに、猟奇的な殺人をくり返すシリアルキラーです。
ある日、ハサミ男は自分の手口を真似て殺された死体を発見してしまい……。

倒叙ミステリ(※)でありながら、殺人犯自身がべつの犯罪の調査をすることになる、奇妙な設定です。
雑学やユーモアたっぷりの文章がおいしいv

※ 犯人側の視点も含めて語られるミステリ。警察や探偵に追いつめられていくドキドキ感や、展開される駆け引きなどが魅力。「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」「DEATH NOTE」など名作の多いサブジャンルです。

 第4位


ロートレックの絵が飾られた洋館で、美しき女性たちが次々と銃殺されていく……。
とても重要な要素が伏せて語られています。わかってみるとびっくり。
叙述トリックはある意味では「アンフェア」な仕掛けともいえますが、本書は文章も構成も間取り図も、とことんフェアであろうとしています。

登場人物たちが個性的で、皮肉っぽい語り口が魅力。
なぞるように事件をふりかえっていく「第十七章 解」以降がとても丁寧ですv



……ところで、余談なのですが。
こうしてみると、”美しき女性たちがどんどん殺されていくミステリ”ってけっこう多いですね。
このへん、フェミニズム分析的になにか言えそう、と思ったところで、前に読んだ……


という本を想い出しました。
まるで”シリアルキラーにならないための心構え!”みたいなタイトルだけど、文芸評論です。
物語のなかの<女の子>には<下降>の力学がはたらく。物理的にも、社会的にも。
逆に、<男の子>には<上昇>するチカラがはたらく。

ちなみに女性が物理的に落下するミステリといえば……。


社長令嬢が、文字どおり塔から墜落するお話です。
これも叙述トリック。プロット・構成におおきな仕掛けがほどこされています。
以上、余談おわり!



 ランキング圏外


トップ3の前に、ランキング圏外から4作品を紹介。




大雪のなか、ある特急列車で起こった殺人事件の真相は……!?
漫画です。ですが、叙述トリックと呼んでかまわないミスリードが仕掛けられています。
鉄道ファンをニヤリとさせる描写がたっぷり。雰囲気がステキなミステリ。
小説ではなくコミックなので今回は圏外です。



以前の記事(最近読んだライトノベル10冊〜恋愛・ミステリ・異世界〜)で『6番線に春は来る。そして今日、君はいなくなる。』を紹介した、大澤めぐみさんのライトノベルです。
これといって特徴のない地味な梓には、「男あさりをしているらしい」というウワサが立っていて。彼女はまさにウワサどおりに……。

序盤に大どんでん返しがあります。この設定だとこんなミスリードが成り立つんだ、とハッとする。後半にも叙述トリック的な仕掛けがあります。
ジャンルじたいはミステリではないので圏外にさせていただきました。



6本(7本)の短編を収録。最初に「読者への挑戦状」として「叙述トリックが使われております」と宣言されます。
叙述トリックはたいてい”不意打ち”で驚かされることが多いけれど、本書はフェアに”出題”しているのがユニーク。
ひとつひとつの作品はとても短く、濃厚な読み応えという点ではどうしてもほかの長編に引けをとってしまう。なので圏外にさせていただきました。



映像化は不可能だったはずの同名の小説を、みごと映画として成立させてしまったすごい作品です。
映画ならではの”文法”を逆手にとった”叙述”トリックが仕掛けられています。
本ではなく映像作品なので圏外。まさかこんな方法があるとは……。



 第3位


第3位は、その『イニシエーション・ラブ』。
合コンの席で出逢った女の子に、僕はしだいに惹かれていき……。

男の子の気持ちを描いた上質な恋愛小説なのですが、最後の1ページ。ラブストーリーだったはずの物語がミステリに一変する。
「必ず二回読みたくなる」とのキャッチコピーのもと、たくさんの読者を夢中にさせた名作です。未読ならぜひ♪

 第2位


”憑き物”の血が流れる旧家が対立する、閉鎖的な田舎の村。
ここでは昔から”この世ならざるもの”が跋扈しているとしか思えないような怪事件が相次いでいて……。

神隠し。憑依。蛇神。案山子神。迷い家。
旧家の奇妙な家系図。入り組んだ村の地形。
すべてがおどろおろどしくて、濃厚な世界に飲みこまれてしまいそうなほど。

叙述トリックとして、類例の少ない大仕掛けがほどこされています。
本格ミステリと民俗学的な本格ホラーが融合したすごい作品。オススメですv

 第1位


孤島に集まったミステリマニアの面々。いわくつきの建築家がたてた「十角館」で、ひとりずつ順番に……。

抜群の読みやすさ。驚愕のトリック。心を惹きつけられる、面妖な雰囲気。
推理小説ファンはひとり残らず本書を読んでいるはず。そう断言してもいいくらい。
新本格(※)ムーブメントの嚆矢となった不朽の名作です。

※ 新本格ミステリ。1980〜90年代に日本でおこった新しいミステリの流れのこと。具体的な作風というよりは、以前の記事(【ロジック】新本格ミステリの名作100冊【プロット】)で紹介したような一連の作家たちを指していうニュアンスです。新本格推理小説。



 番外編


ベスト10のあとは、「番外編」としてキラリと光る名品をご紹介。
小説ではなく、叙述トリックにまつわるエッセイや評論をピックアップしました。



「叙述トリック試論」という我孫子武丸さんの文章が収録されています。
叙述トリックの定義論、フェア/アンフェアについての考察、創作にあたっての心構えも。
かっちりとした論考というよりは、ユーモアたっぷりのエッセイです。くすりと笑えて、タメになる♪
電子書籍版のみでリリースされている試論は↓こちら。

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まるまる1冊ミステリ作品の「叙述」について論じた、本格的な文芸評論です。
アクロイド殺し、二銭銅貨、達也が嗤う、殺人交叉点、十角館の殺人、イニシエーション・ラブ……。
芋づる式の読書案内にもなる本。ネタバレをいとわず古今東西のさまざまな作品について論じているので、気をつけてくださいね。

ミステリ以外の小説も取りあげています。たとえば、田山花袋『蒲団』のテクストの「言い落とし(レティサンス、黙話法)」を指摘する……など。
末尾には笠井潔さんと巽昌章さんと法月綸太郎さんの鼎談(途中、我孫子武丸さんも乱入)が収録されています。

叙述トリックは<語り>=<騙り>の操作が如実に意識されるスタイル。
以前の記事(【語り手】文学理論を学びたい人のための15冊【テクスト論】)で紹介したような文学理論に興味がある方も、とても面白く読める1冊です。



叙述トリックをテーマにした本ではありませんが、「第4章 ミステリーをより面白くする」で、折原一さんと我孫子武丸さんが叙述トリックの作り方を指導しています。
↑『十角館の殺人』の綾辻行人さんも寄稿しています。叙述トリックの鬼才が本書で語るのは……物理トリック指南。どうしてこうなった(笑)。

「ミステリ作家、勢ぞろい!」な43名が集結している豪華な1冊。
インタビューを読むようなつもりで楽しめます♪



ノーリスク・ハイリターンの投資は"読書"♪


あきか(@akika_a

(冒頭の写真は箱根園水族館のホシエイです)

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posted by akika at 23:16| 10冊シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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