今日のなぞなぞ
「テクスト論、語り手分析にあたらな可能性をひらく一葉論集は?」
電子書籍サイトのアマゾンkindleで
樋口一葉論をリリースしました。
タイトルは……
樋口一葉「働く女三部作」論
――『大つごもり』『にごりえ』『わかれ道』にみる〈語り〉の位相
文学研究の論集です。
樋口一葉は、以前の記事(【泣ける】女性作家が描く切ない恋愛小説10冊【沁みる】)でも紹介しました。
近代日本が誇る作家さんです。五千円札のひと。
一葉の小説のなかで「働く女性」を描いている3作品
『大つごもり』『にごりえ』『わかれ道』をがっつり、研究しました。
完全に専門書です。
ウリとしては……
1.先行論文、先行研究を丁寧に整理!
2.テクスト論、語り手分析の実践が読める!
3.従来にない形でフェミニズム批評を展開!
順番に説明すると。
1.
『大つごもり』『にごりえ』『わかれ道』の研究史にかなり丁寧にふれています。
「本書の脚注をリスト化して図書館にいけば、先行論文がほとんど揃う」というレベル。
これから一葉研究にのりだそうという方には、とてもオススメ。
2.
以前の記事(【語り手】文学理論を学びたい人のための15冊【テクスト論】)で文学理論についてふれましたが、
「じゃあ、実際の作品分析でどうやって文学理論を使えばいいの?」と迷いますよね。
本書はテクストを物語る主体を「語り手」と規定し、”語り手分析”に力をいれています。
小説を熟読する方法、その具体例がわかる。
3.
現代にも通じるテーマである「働く女性」を、一葉はどう描いているのか。
フェミニズム分析では”抑圧された女性”をあぶりだす方法がわりとよくみられますが、
本書では、ひと味違ったフェミニズムを読むことができる。
……そんな感じかな。
以前の記事(【電子書籍】恋愛&ミステリ小説『闇に走れば』をアマゾンkindle、楽天koboでリリースしました、【電子書籍】恋愛&本格ミステリ『アトカタモナイノ国』をkindle、koboでリリースしました)で紹介した小説は、
最低価格(楽天koboでは無料)だったけれど、
今回は、販売価格の敷居を高く設定させていただきました。
完全に専門書です。
↑の小説や、このブログを読む延長で
なんとな〜くダウンロードしてしまったら「???」となりかねない。
ゆえにこの価格帯です。
逆に、文学研究に従事されている方や樋口一葉ファン、
「骨太な専門書、どんと来い!」というあなたは、ぜひ読んでみてくださいね♪
一葉論を書く機会があるひとは、
がんがん引用してもらえれば嬉しいです。
とくに「『にごりえ』論」を推し。
今回は縦書きのみのリリース。
楽天kobo版はナシです。
最後に。
参考までに、本書の各論文の要旨を紹介しておきますね。
『大つごもり』論――道化的語りと二円の意味生成――
『大つごもり』の語り手はお峰を「孝女」、ご新造を「鬼の主」に仕立てあげようと躍起である。ご新造のけちで嫌味な身振りをたたみかけ、お峰の辛さを読み手に刻印しようとする。また、テクストのいたる箇所に具体的数字を散りばめることにより、お峰の労働の過酷さ、伯父一家の貧しさを強調すると同時に、「二円」をめぐるドラマを盛り上げる。
しかし饒舌に具体的数字を開示するこの語り手が、さりげなく明示を避けている金銭の値がある。山村家の旦那や来客からお峰が受けているはずの「贔屓」の小遣いである。これらの値を明らかにしてしまっては、盗まれねばならない「二円」の重みが減量してしまうからである。このように『大つごもり』の語り手は表層の物語を面白可笑しく語りながら、いくつもの抑圧を抱えている。テクスト終盤では「鬼の主」であったご新造の内面の事情にもふと立ち入っている。
語りの結い目をほどいたとき、労働資本を金銭に変換しようとしている近代的労働者お峰の姿が見出せる。語りの誘導を排してお峰の言動に目を向けると、つらさを嘆いたりご新造の気性を恨む箇所は見当たらない。お峰が平静を失うのは貧しさゆえに苦労を強いてしまっている三之助に対峙したときのみである。お峰の三之助への情愛は一家にお金を入れるという方法ではなく、傍にいて共に暮らしたいという気持ちで表現される。主人に対する色仕掛けに頼ることなく純粋に労働力を金に替えてきたお峰の市場理論は、ご新造の気ままな違約ゆえに行き詰まり、金銭と情愛の間に引き裂かれる。
語り手は「孝女」と「鬼の主」をめぐる大晦日噺として、お峰の葛藤を宙に吊ったままテクストを締めるが、そこには女中労働がやはり近代的な労働たりえないという嘆きが抑圧されている。
『にごりえ』論――ワイドショー的語りの外で――
お力は新開じゅうからまなざされ、レッテルを貼られる客体として存在している。語り手はことあるごとにお力の美貌と酌婦の腕前を強調する。菊の井の朋輩らは行儀の悪さや気の強さを語りつける。結城朝之助をはじめとする銘酒屋に来る客たちは美人で芸事教養にも通じているお力を珍しがってまなざし、朝之助は当時の一般の酌婦像にお力をあてはめては否定させて、お力の履歴に迫ってゆく。源七一家は、娼婦が鬼であり甘い言葉で人を騙す悪であるという当時の世間の語りを援用して、葛藤がありながらも律されている。
お力はこれら他者の言葉に自らを蹂躙させ続けており、貼られたラベルを使用する以外に自我を語る術がない。彼女が自身を語りつける「気違い」というレッテルも、自らの懊悩とはずれている。朝之助に語ることを通しても表現できなかったお力の懊悩は、カステラに附されて源七一家に達する。これが世間的な制度の語りで律されてきた源七の<家>を崩壊させたてんに、テクストの反制度的な情動が見出せる。
『わかれ道』論――「働く女三部作」の末――
お京と吉三は共に互いの虚像をまなざしながら会話を進めている。吉三はお京を汚れのない清らかな姉として見ている。お京は妾に出るという自身の問題に引きつけて会話を進めており、吉三を自分に見立ててしきりに出世を勧めることで自身の決意の後押しをしている。
虚像を通じてかろうじて成り立っていたコミュニケーションはお京が妾に出られることが明らかになったときに崩れ始める。吉三はお京の実像が決して姉でも清女でもなかったことを知り、お京は吉三の実像が妾奉公を喜んでくれるはずがないことを目の当たりにする。互いの内なる理想像に合致しないふたりは訣別する以外になかった。
『大つごもり』『にごりえ』『わかれ道』の各ヒロインは、現状から抜け出せる方法を持っている仕事のできる美人であり、世間から好奇の目でまなざされながら階級差のある現場で働いているという共通点がある。<働く女>自体が差別的な記号であるなか、三テクストの語り手たちはそれぞれ、お峰を徹底的に語りつけ綻びを見せることで、お力に対するレッテル貼りを作中人物たちと分担しテクストに空白を残すことで、お京について全く語らないことで、記号的な<女>に回収され得ない彼女ら自身を小説内に存在させようとしている。とりわけ、吉三が<孤児>という記号に押し込められてしまっている面はあるが、お京に対し語り手の制度的な言語がほとんど費やされていない『わかれ道』は、「働く女三部作」の末として意義深い。
それでは。
ノーリスク・ハイリターンの投資は"読書"♪
あきか
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