2012年11月11日

碇シンジは夜神月を止められない――宇野常寛『ゼロ年代の想像力』

 
今日のなぞなぞ
「2000年代とは、どんな時代なのか?」

ゼロ年代の想像力 (ハヤカワ文庫 JA ウ 3-1)
宇野常寛
早川書房
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「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q」が11/17、いよいよ公開になりますね〜。
そんなわけで今日はエヴァンゲリオンのお話……ではなく。
社会学、とくに私の好きなカルチュラル・スタディーズ、サブカルチャー分析のお話です。


商品を売るためには、物語が必要。


そんな言葉をよく耳にすると思います。
企画や販促、広告、ブランディングの教科書なんかで、繰り返し説かれているノウハウ。


でもでも。
じゃあ、どんな"物語"が人々の心に刺さるのかといえば。
これは、時代によって移り変わっていくかもしれません。


だとえば、いま「おいしい生活」(※)というコンセプトを聴いたとして。
たぶん、あんまり刺さらない。


※ 糸井重里さん作、80年代の西武百貨店のキャッチコピー。「不思議、大好き。」も有名。


格差・デフレ時代のいまなら
「ゆるやかな生活」とかの方が、趨勢をとらえているような気がします。
……って、訳せばまんま"スローライフ"のことなのですが(笑)。


とにかく。
どんな商品、どんなストーリーが心をとらえるかを考えるには、
今がどんな時代なのかわかっていなくては
、とっかかりが見つからない。


80年代、90年代ときて
2000年〜2010年はなに年代と呼ぶんだろうとつねづね思っていましたが。

いつのまにか"ゼロ年代"という呼び方が定着しているようで。

今日は宇野常寛さんの『ゼロ年代の想像力』 (ハヤカワ文庫 JA ウ 3-1)を読みながら、
いまの時代性をいっしょに考えてみましょ、というお話です。



宇野さんは言います。


「人は物語から逃れられない」


と。


 80年代、90年代とは何だったのか


385done

80年代、90年代というと、
ばくぜんとながら、こんなイメージかなぁというものが思い浮かぶと思います。

バブルや広告文化、ジュリアナ、アイドル歌謡……とか、
失われた十年、阪神大震災、オウム、連続児童殺人事件、小室哲哉、ヴィジュアル系バンド……など。


ふりかえってみれば、時代を象徴する現象を
いろいろと思い浮かべることができると思う。


でも、ゼロ年代をイメージするのは、意外と難しい。

小泉政権、同時多発テロ、ホリエモン、失われた二十年、
格差、ニート、ワーキングプア、無縁社会、
お笑いブーム、モーニング娘、オタクの大衆化、SNS……。

断片としてははいろいろ拾いあげることができるけど、
全体として、なんとなく統一的なイメージが湧かない。


これは、ゼロ年代がいまだに続いているから、という理由もあるのだけど、
(社会学では、〜年代というのはキリのいい〜0年で終わるという見方はほとんどされません)
なにより、
ゼロ年代という時代を包括して語る本がなかったから、というのが大きいかな。個人的には。


……たたき台や礎がないとどこにも行けない、私は
他人のあたまで考えるタイプです^^;


80年代の空気は、浅田彰さんの著作が象徴していました。
『構造と力』そして『スキゾ・キッズ』です。
(スキゾ、パラノという言葉は流行語にもなったそうです)

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90年代は、なんといっても宮台真司さん。
私が社会学大好きっ子になったのは、宮台さんの影響です。

援助交際、オウム、神戸連続児童殺傷事件……ある点では身近だと思える現象を、
宮台さんは的確に"社会的文脈"のなかにとらえなおしました。
豊富な知識とフィールドワークを通して。勢いのある、魅力的な文章で。

↓宮台さんの初期作品は、いま読んでも名著ばかりです。

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そんな感じで、いざ
ゼロ年代は? と問われると、ちょっと即答できない。

もちろん、東浩紀さんの存在があります。
このブログでも何度も登場している『動物化するポストモダン』がある。





東さんはゼロ年代を代表する思想家なことはたしかなのですが。
『動物化〜』は、オタク文化を扱っていながらも、
社会全体へと敷衍することのできる、すぐれた批評であることもたしかなのですが。

なんとな〜く、
すべてを"包括している"という感覚は、私は持てなかったんです。
あくまで私は。

念のためにいっておくと、
『動物化〜』は名著ちゅうの名著。すっごくオススメだし、
この本を読んでいなければお話にならないというレベルの、基礎教養ともいうべき本です♪


じゃあ、私が感じた"ものたりなさ"はなんなのかというと。

80、90年代に比べて社会がさらに細分化しているせいなのかもしれないし。
東さん……というより批評家が扱う研究対象が(本人もおっしゃっているとおり)、限定せざるを得ないという事情によるのかもしれません。
それから『動物化〜』の上梓がゼロ年代のずいぶん早い段階だった(2001年)というのも、大きいかも。


そんななか、
東さんの批評を"たたき台"にする形で登場した
ゼロ年代批評――

『ゼロ年代の想像力』という本に、
私は時代を総括するものを感じたわけです。


 因縁めいたもう1冊



『ゼロ年代の想像力』の帯の推薦文は、
↑上に出てきた宮台真司さんが書いています。
いわく……


若い書き手による、単なる「好きなもの擁護」を超えた、時代を切り拓くサブ・カルチャー批評を、僕らは長いあいだ待っていた。それが本書である。政治思想の最先端とも響きあう高度な内容は、その期待に応え得るはずだ。



ところがところが。
本書は実は、これまた先に出てきた
東浩紀さんの一連の思想を礎として、東さんに反論する形で書かれている。


宮台さんに似た手つきでサブカル分析を社会へとおしひろげながら、
あくまで東さんに反駁、ある意味では東さんに議論をふっかける評論集となっているんです。


それだけでも因縁めいていて面白いのですが。
もっと面白いことがあります。


まるでこの本と対をなすように、


宮台さんの得意分野でもある社会システム論を使って、
現代を分析している評論集
がある!!
しかも、帯の推薦文は東浩紀さんが書いている!!


気になるところではありますが、
これはまた後で紹介したいと思います。


 決断・サヴァイブの時代


391done

さて。ずいぶん前置きが長くなりましたが。
本書の紹介にいきます。


『ゼロ年代の想像力』の著者、宇野常寛さんは評論家。
「PLANETS」という批評誌の編集長をされている方です。
「朝まで生テレビ」などで見たことがある人も多いかな。


本書はゼロ年代の文学、映画、TVドラマ、アニメ、漫画……などを縦横無尽に語る、サブカルチャー批評書です。
扱う"素材"はほんとうに多岐にわたります。
↓これだけの作品に言及しています(アマゾンの<内容紹介>より、コピー&ペースト)。


青山真治/池袋ウエストゲートパーク/犬夜叉/ウォーターボーイズ/ALWAYS 三丁目の夕日/仮面ライダー龍騎/仮面ライダー電王/木皿泉/木更津キャッツアイ/オトナ帝国の逆襲/蹴りたい背中/犬身/恋空/コードギアス/宮藤官九郎/小林よしのり/最終兵器彼女/桜庭一樹/佐藤友哉/戯言シリーズ/下妻物語/女王の教室/ジョゼと虎と魚たち/新世紀エヴァンゲリオン/永遠の仔/すいか/世界の中心で、愛をさけぶ/セクシーボイスアンドロボ/涼宮ハルヒの憂鬱/西洋骨董洋菓子店/DEATH NOTE/電脳コイル/時をかける少女/ドラゴン桜/NANA/野ブタ。をプロデュース/鋼の錬金術師/ハチミツとクローバー/パッチギ!/バトル・ロワイアル/ファウスト/古川日出男/フラガール/冬のソナタ/マンハッタンラブストーリー/松尾スズキ/浜崎あゆみ/メゾン・ド・ヒミコ/よしながふみ/よつばと!/ライフ/らき☆すた/ラスト・フレンズ/リンダリンダリンダ/ONE PIECE



これらの物語を分析することで、
ゼロ年代を覆う、人々の"想像力"をあぶり出してしまおうという本。


で。
ゼロ年代とは、どんな空気なのかというと。
この本では……


決断主義(サヴァイブ系)


という言葉が出てきます。




↑『DEATH NOTE』というマンガの夜神月をイメージすればばわかりやすいのですが。
未読の方もいるでしょうから、言い換えてみると。


じぶんの信じる道を歩むため、絶えず行動する
じぶんが勝つために、絶えずまわりと戦い続ける。
対立する者や、じぶんの思想になびかない大衆も動員し、じぶんの正義を貫く。



……そんな感じ。


社会は、
みずからの生存のため、他人と殺し合うゲーム(バトル・ロワイアル)である。

というイメージです。


いや、実際の社会がそうなのかは別として。
そういう"生き残り"的な世界を描いた物語=想像力が、
多くの人々の共感をえている
ことが重要。



ハッとしました。

決断主義、サヴァイブという言葉は、
言われてみればずいぶんこの時代を表現しているなぁ、と思いました。


「勝ち組・負け組」「婚活」なんて言葉はまさにサヴァイブそのものだし。
「空気を読む」という語も、集団のなかで"生き残る"ための処世術という意味あいが強い。
最近のJポップの歌にも、決断し行動する「私」を肯定するような詞が多いな〜なんて感じています(↓miwaさんとか、ね)

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 碇シンジは夜神月を止められない


350done

ある意味殺伐とした現代の"想像力"を分析したのち、
宇野さんはそこに"光"を見つけようとします。

生き残り時代のなか、
競争に勝てない人間にどんな希望があるか。


その答えは、たとえばTV版の↓「野ブタ。をプロデュース」であり、

野ブタ。をプロデュース DVD-BOX
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「木更津キャッツアイ」だったりするのですが。

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要は、
終わりなき日常(宮台真司さんが広めた言葉です)のなかで途方に暮れることではなく、
終わりのある日常のなかで、"ちいさいけれど自分にとって大切なコミュニティと接続する"
こと。

だと私は解釈しました。


その文脈で、


碇シンジは夜神月を止められない


というフレーズが出てきます。

碇シンジは、ご存じ「新世紀エヴァンゲリオン」の主人公。
ロボットに乗って戦わなくてはならない運命を肯定できず、
父親との確執のなか、ときおり自分の内側に引きこもってしまうようなメンタリティを持った少年でした。



でも、引きこもっているだけじゃ、
サヴァイブ時代に光は差さない。



じつは「エヴァンゲリオン」という作品は「セカイ系」というジャンルの走りとも言われています。
セカイ系とは、

主人公とヒロイン(きみとぼく)の関係性(近景)が、社会(中景)をはさむことなく
世界の命運(遠景)と直結してしまうような物語


のことを言うのですが……


……って、今日のエントリ、
このへんのカルチャーに明るくない方にもちゃんと伝わっているのかどうか不安です^^;
専門用語多過ぎ(T_T)


はしょって言うと、
「碇シンジは夜神月を止められない」というフレーズは、宇野さんの"セカイ系批判"にも繋がるわけです。
東浩紀さんに反論する形での"セカイ系批判"、的確でスリリングで、とても面白いです♪


サヴァイブ時代の光をさぐっている、宇野さんの姿勢にもとても共感できます。
でも、私は
本書で挙げている"解決策"以外にも、道がありそうだなと思いました。


ちいさいけれど大切なコミュニティ。


……それを得るためにサヴァイブが行われるとしたら、
やっぱりどこにも光は差さないような気もします。

たとえちいさくても、共同体にいるためには
コミュニケーションが必要なわけで。

そうすると、「コミュニケーションスキル」という言葉が立ちあらわれてきてしまいそうで。

思えば、「コミュニケーション能力」という言葉が重要ワードになってから久しい。
「コミュ力アップ!」が、まるで"生き残るための脅迫"のように聴こえてしまうのは、私だけじゃないと思う。


じゃあどんな方法があるのかと言えば。
どんなんだろ〜と考えこんでしまうのですが。


なんとなく、西尾維新さんなどが"生き残り時代の光"というテーマにチャレンジしている気がします。

少女不十分 (講談社ノベルス)
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↑『少女不十分』の主人公は言います。

でも、根底に漂うテーマはひとつだった。
 道を外れた奴らでも、間違ってしまい、社会から脱落してしまった奴らでも、ちゃんと、いや、ちゃんとではないかもしれないけれど、そこそこ楽しく、面白おかしく生きていくことはできる。
 それが、物語に込められたメッセージだった。


一連の西尾さんの作品をみずから解説しているとも取れる箇所なのですが、

生き残りゲームになんてコミットしなくても、
生きていくことはできるんだよ。



と、おっしゃっているように聴こえません?
そのための物語を、じぶんはいろんなパターンで書いているんだよ、って。


まあ、宇野さんも、もちろん西尾維新さんの作品は視野にいれてらっしゃるので、

おおきな目でみれば、宇野さんの提示した光とつながっているのかもしれませんが。


 おまけの本の紹介



なんだか、いつも以上にまとまりのない記事ですみません^^;
とにかく、

時代がすごくクリアに見える。そして、いろいろと考えたくなる。

そんな本です。


『ゼロ年代の想像力』 っていう本は
オススメだよぉ☆(*´∇`*)ミ☆



って今回もそれだけ伝わればじゅうぶんなんですけどね(笑)。


それでは、おまけの本の紹介。
↑上でお話した、まるで本書と対になるような評論です。


神話が考える ネットワーク社会の文化論
福嶋亮大
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宮台真司さんの得意ジャンルである社会システム論を使いながら、
「神話」という概念をキーワードに現代文化を研究しています。
帯の推薦文はなんと、東浩紀さん。


不思議すぎる因縁。
さぁ、セットで must buy! だ!!



浅田彰さん、宮台真司さん、東浩紀さん、宇野常寛さん、そして福嶋亮大さん。
今回は5人の著作を紹介しました。

挙げた評論は9冊
すべてをひもとけば、この30年の日本の精神文化をしっかり見通せるようになります。

貴重な読書体験となることうけあいです♪



9冊セットで must buy! だ!!



ということで。
ノーリスク・ハイリターンの投資は"読書"♪


あきか
 
posted by akika at 21:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会学・現代思想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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