2011年12月02日

黒山もこもこ、抜けたら荒野――名作発見しました♪

 
今日のなぞなぞ
「黒山もこもこ……ってなに!?」


しばらく更新サボっちゃっててすみませんでした。
ひさびさのアップ、今日はかなりの掘り出しものです♪




『黒山もこもこ、抜けたら荒野 デフレ世代の憂鬱と希望』水無田気流(光文社新書)


「求めていたのはこれだ!」

と、叫びたくなるくらい、
とってもいい本。名作です。

こういう書に出逢えるとほんとに嬉しくて。
本読みやっててよかった〜と思う瞬間。


個人的にいろいろなポイントがツボでした。
箇条書きで挙げるなら……


1.タイトルが素敵!
2.文章がとてもいい!
3.作者が詩人!
4.バブル時代に触れている!
5.個人史として、面白く読める!
6.社会学書としても、洞察に富む!
7.フェミニズム!
8.格差時代を批評する!
9.ニヤリとできるパロディ満載!
10.なぜかボーイズラブ(腐女子文化)も登場する!



なんというか。
「私のために書いてくれたんじゃね?」と思うくらいの、
俺得(自分だけが得をすると思えるような商品を指すネットスラングです)仕様でした。


 「みなしたきりう」さんと読みます


水無田気流(みなしたきりう)さんは、神奈川県相模原市出身の(←ここ、あとでポイントとして出てきます)社会学者

詩人でもあり、
『音速平和』という作品で「中原中也賞」を受賞しています。


『黒山もこもこ、抜けたら荒野』とは、
水無田さんの社会学者としての資質と文芸家としての才能がいい感じにミックスされて名作(断言!)になっています。



1970年に生まれ、相模原という典型的な郊外都市に育った作者。
父はサラリーマン、母は専業主婦というこれまたティピカルな家族構成。

「高度成長」と「バブル」、その後の「失われた〜十年」という経済を尻目に見ながら歳を重ねていく……。

そんな「割りを食った」世代・階層にとって、
「幸福」とは何なのか、の変遷を個人的に(でもしっかりと社会分析を兼ねて)つらつらと綴ってゆく。

――という本です。


(もちろん、水無田さんと同世代の方でなくても面白く読める1冊です。
私も彼女とは違う世代ですし)




筆者自身、

これは世代論や階層論ではなく、
大河ドラマ、インナーワールドのロードムービーだ


と最初に言っているくらい(笑)
個人的な興味やエピソードが満載なのですが、

ところどころにラディカルな批評性がずいぶん目立って輝いている
……そんな名作です。


あまりにも良書すぎて、どこからレビューしていいのかわからない。
なので、↑上に挙げた箇条書きをガイドラインにして、
今日はひたすら本書を褒めちぎります(笑)


 タイトルが素敵!


『黒山もこもこ、抜けたら荒野』

……一度聴いたら耳について離れない、気になるタイトルですよね。
以前の記事(ぐっとくる題名――エッセイ集をハウトゥー本に見せかける3つ方法)で紹介した


『ちんろろきしし』元永定正(福音館書店)

に通じるものがあるかも。語感的に。


「黒山もこもこ」は、どういう意味かというと。

水無田さんにとっての小さい頃の想い出は、みんな人混みと共にあるんです。

家族で行ったディズニーランド。
幼稚園の送迎バス。
上野動物園のパンダ。
つくば万博。

目にしたはずのパンダよりも、「もこもこ(=人混み)」自体の方を想い出として記憶している
……そんな原風景。


水無田さんは言います。
自分がその人混みの一員を構成しているということが、無性に怖かった、と。

(このへん、ちょっと小説のテーマにもなりそうな雰囲気ですよね)


で。
「もこもこ」がバブル崩壊とともに解体すると、
こんどはだだ広い「荒野」が続いていくわけです。

「荒野」は、<大衆>がいなくなった消費社会。
誰も助けてくれない勝ち負け格差社会、地方の疲弊……そんな感じのアナロジーだと思います。


 個人史として、面白く読める!


この本には水無田さんのお父さんとお母さんのことが、
ちょこちょこと出てきます。


倹約を美徳とするお父さん。
母にプレゼントひとつ贈ったことがありませんでした。

一度だけ。
水無田さんがお父さんを無理やりデパートに連れていき、
カーディガンを一枚買い、お母さんに贈らせたことがありました。

お母さんはとても驚き、
そして喜んだそうです。


その年の夏。
お母さんは亡くなりました。

お父さんはそのとき、
葬儀屋に渡されたパンフレットのいちばん高い物から順に、
お棺や仏具を無言で次々と頼んでいきました。



父が母に贈った、いちばん高価なものは、仏壇。



……そんなふうな、ちょっとキュンとする
個人的なエピーソードもところどころに出てきます。


 格差時代をフェミニズムする!


この本に通底しているテーマが、

「格差社会」と「フェミニズム」

です。



ひとつ。
まさに「格差社会」を「フェミニズム批評」している印象的な部分があったので、
紹介させてくださいな。


第一章半ばの
「企業だってパラサイトしている!?」という項目です。



---------------------

女性の場合、真面目に働いても「将来へつながらない」確率は、明らかに男性よりも高い。
これは、いまだに賃金体系が男性の稼ぎ手を中心とした「家族賃金」モデルを前提としているからである。

(中略)

「家族賃金」とは、言い換えれば
「家族のうち一家の大黒柱であるオトーサンさえ厚遇しておけば、あとは補助的収入であるから
パートのオカーサンもハケンのオネーサンもフリーターのオニーサンも給料は安くていい」
という共通了解を生み、
結果として「オトーサンの懐を当てにした」給与体系となる。

---------------------



要は、いまの日本の給料体系は、

「君達はオトーサンに生活を支えてもらってね」

という制度になってるわけですね。

でも、女性に限らず

ワーキングプアや派遣……


……もう既に
オトーサンの扶養家族じゃないひとたちも、
その体系のなかで働いてる。


なのに、
「オトーサンが稼いでるんだから小遣い程度でいいでしょ」ということになってしまっている……。





なんというか。
見事な家父長制批判だなぁ、と私は思いました。


家父長制とは、年長の男性によって支配される家族制度のことです。
法制化されているものもありますし、制度化されていなくても父権的なものって世の中にたくさんあるわけで。

基本的にフェミニズムのひとたちは、
活動家や文学者なんかも含めて、これを解体することが目的だったりします。


フェミニズムは、私にとってもじぶんのなかのテーマのひとつなのですが。
まあ、その話はまたべつの機会にいたしましょ。


 ニヤリとできるパロディ満載!



各節のタイトルが、
いちいちいろいろな作品のパロディになっていたりします。


「あらかじめ失われた世代」
「はたらけど、はたらけど」
「完璧の母」
「『普通』とは遠きにありて思ふもの」
「そして、誰も読まなくなった」
「なんとなく、格差」
「個人の私主義」



↑こんな感じに。


元ネタがわかれば、ニヤリとできる。
本好きにとって、ちょっとした楽しみです♪


 なぜかボーイズラブ(腐女子文化)も登場する!



第四章「一九八〇年代――文化系女子のサブカルチュラル・ターン」


では、ボーイズラブや腐女子文化が出てきます。

(ボーイズラブは男性同士が恋愛をする物語のこと。
腐女子、は女子の「オタク」)

作者さんは文学少女なので、
なかば当然のように(笑)腐女子文化ともシンパシーが高いのですが……。


サブカルは社会学の主要な研究分野のひとつです。
ですが、ちょっと唐突(笑)。

本書の趣旨からも若干脱線ぎみな章なのですが、
でも、第四章の完成度もとても高い。


だからやっぱり、外せない!
この章もずいぶん楽しく読ませていただきました。



ちなみに以前の記事(「魔法少女まどか☆マギカ」に学ぶ4つの人生訓)で、
栗本薫(中島梓)さんの「新・やおいゲリラ宣言」という文章を紹介しましたが。
(やおい=ボーイズラブの前身のような言葉です)

この章でもボーイズラブを語るときに中島梓さんの本が出てきます。



「やおいとは『君が君自身であること』を愛しているといってくれ、という作品群」である。



『タナトスの子供たち―過剰適応の生態学 』中島梓(ちくま文庫)


 とにかく、オススメ!


以上。
いろいろと申し述べましたが、とにかく。






『黒山もこもこ、抜けたら荒野』は、
超オススメだよぉ(*´∇`*)ミ☆



というお話でした。



名作!



あきか



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posted by akika at 10:52| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会学・現代思想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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