2020年01月22日

じつは読書案内? 『神様』に出てくる民俗学の本と用語16コ


今日のなぞなぞ
「民俗学を知る本16冊は?」


神様 「矢神・朝比奈」シリーズ
神様
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A.A.Publishing (2019-12-31)


以前の記事(【神隠し】恋愛&伝奇ミステリ小説『神様』をリリースしました【鎮守の森】)で紹介した↑『神様』
じつは「読書案内」といえるほど、さまざまな民俗学の本に言及しています。
この分野の用語も多数、登場します。

物語の舞台となる美香櫛(みかくし)には、いろいろな土着信仰が根づいていて。
主人公のマナは、風変わりな習俗に驚きっぱなし。
なにも知らないマナに、まわりの人物がレクチャーするシーンがたくさんあります。

出てくる本や言葉は、民俗学入門としても最適なものばかり。
今日は『神様』にでてくる本と専門用語を紹介していきます。


〜固有名詞の説明〜

マナ : 本書の主人公、語り手。
先生 : 幼い頃からマナの面倒をみている家庭教師。
来須 : 先生の友人。この物語の”探偵役”となる人物です。
美香櫛 : 秋田県の僻村。先生の故郷。


ではでは。
民俗学を知る16冊をど〜ぞ〜♪


※ 引用は『神様』より。ネタバレを避けるため、どんなシーンで言及されているかをあいまいに濁しているものもあります。

 1.虫送り

「蛇ですか?」
「間違いじゃないけど、いちおう龍ね。今年もちゃんと虫追いをやったんだな」
「むしぼい?」
「いわゆる虫送り」
 いわゆると言われても、どちらも初耳だ。

マナと先生のかけあい。
美香櫛には虫送りの風習が残っていて、なまってムシボイと呼ばれています。

虫送りは豊作を祈願する行事。
藁などで人形や動物をかたどり、これを依り代(後述)として害をはらう呪術です。
以前の記事(【民話伝承】日本の土着・民間信仰を知る本10冊(中編)【フォークロア】)で紹介した『イタコとオシラサマ』など、様々な民俗学の本で解説されています。




 2.形代、依り代

「龍でなく人形を形代としたり、幟ですませたり、地域によっていろんなバリエーションがある。形代を燃やすパターンも多い」
「かたしろ?」
「形代はわかる?」

その虫送りの解説シーン。
美香櫛ではアマリョウサマと呼ばれる藁の龍が”依り代”となっています。

形代(かたしろ)や依り代(よりしろ)は、目に見えないものを宿す媒体のこと。
よりしろは、柳田国男とならぶ民俗学の大家・折口信夫が提唱した概念です。
「国文学の発生」などでまとめられています。




 3.まれびと

「マレビト信仰というより、美香櫛ではしつけの一環として根づいている。僕も子供の頃はマレビトって言葉さえ知らなかったよ」

先生のせりふ。
美香櫛では”よそ者”を丁重にもてなす習慣があり、マナは子供達から大歓迎されます。

まれびと、も折口信夫が分析した概念。
”よそから来る異人”を来訪神とみなすのがマレビト信仰です。
おなじく「国文学の発生」等で考察されています。




 4.ナマハゲ

「ちなみに、ナマハゲも来訪神の一種な」
 美香櫛にナマハゲが来ることはないという。もっと西のほうの風習らしい。
「ナマハゲー」
「マナハゲー」

先生とマナと子供たちがドタバタするシーン(笑)。
美香櫛は秋田県にある字(という設定)です。

ナマハゲはご存じ異形の怪物、民俗神。
以前の記事(【奇習邪宗】日本の土着・民間信仰を知る本10冊(前編)【民俗神】)で取りあげた『日本の神々』でも紹介されています。
ナマハゲファンの方は、以前の記事(幻想と異形の獣人写真集――シャルル・フレジェ『WILDER MANN (ワイルドマン)』)で紹介したシャルル・フレジェの写真集もどうぞv




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 5.6.『春と修羅』、『鬼と鹿と宮沢賢治』

 誰かがひっそりと道を歩いている。どこかで鳥がぱりぱりと鳴いた。身体が冷たい。なのに顔は上気し、嫌な汗をかいている。のどが干からびそうなくらい熱い。
 誰か来る。

マナが「見てはいけないもの」に追いかけられるシーン。

作中で言及されているわけではありませんが、この一連の場面は宮沢賢治の「河原坊(山脚の黎明)」という詩へのオマージュです。
『春と修羅 第二集』に収録されています。
宮沢賢治の文学とフォークロワとの関係は、以前の記事(【民話伝承】日本の土着・民間信仰を知る本10冊(中編)【フォークロア】)で紹介した『鬼と鹿と宮沢賢治』がとても詳しくてオススメですv






 7.『かくし念仏考』

「信者がなかなか口を割らないからまとまった研究はすくないが、高橋梵仙の『かくし念仏考』という本が有名だ」

中盤の謎解きシーン。

隠し念仏は、以前の記事(【奇習邪宗】日本の土着・民間信仰を知る本10冊(前編)【民俗神】)でもお話した、浄土真宗系の念仏信仰。
けっしてよそ者には口外してはいけない、秘密主義の宗教です。
『かくし念仏考』はその研究書。


かくし念仏考〈第1〉 (1969年)
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 8.9.『山の人生』、『現代民話考』

「神隠し譚の類例を知りたければ、柳田国男の『山の人生』や松谷みよ子の『現代民話考』をひもといてみるといい」

来須のせりふ。
美香櫛の神隠し伝承について考察するシーンです。

以前の記事(【民話伝承】日本の土着・民間信仰を知る本10冊(中編)【フォークロア】)でも紹介した『山の人生』『現代民話考』では、神隠しにかぎらず様々なジャンルの民話・伝承を読むことができます。





 10.11.『全国神社名鑑』、『延喜式』

「ぜんぶの神社の名前を把握してるんですか」
「そんなわけないだろ。夢見る少女も度が過ぎるとただの白痴だぞ。『全国神社名鑑』で調べただけだよ」

「式内社でもないだろうね」
 平安時代に編纂された『延喜式』の神名帳に載っている神社のことを式内社というらしい。

マナと来須のかけあい。
美香櫛にある鎮守の森の神社について推理をめぐらすシーンです。

『全国神社名鑑』は全国の主要な神社が探せる、めっちゃ分厚い資料です。
『延喜式』の9巻と10巻は「延喜式神名帳」と呼ばれており、平安時代の神社の一覧が掲載されています。


全国神社名鑒 (1977年)
全国神社名鑒 (1977年)
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全国神社名鑑刊行会史学センター





 12.玉依姫

「タマヨリヒメは特定の神の名であるとともに、神の依り憑となる女性全般をさします」

村の青年・ミモリのせりふ。

玉依姫(タマヨリヒメ)は古事記や日本書紀、風土記に登場する女神です。
以前の記事(【記紀神話】日本の土着・民間信仰を知る本10冊(後編)【古神道】)で紹介した柳田国男の『妹の力』「玉依姫考」では、タマヨリヒメの”巫女”的な要素が考察されています。




 13.14.15.16.その他参考資料

主な参考文献

 小松和彦『神隠しと日本人』角川書店、平成十四年
 門屋光昭『隠し念仏』東京堂出版、平成元年
 上田篤編著『鎮守の森』鹿島出版会、平成十九年
 柳田国男『妹の力』角川学芸出版、平成二十五年
 秋田県教育委員会編『秋田のことば』無明舎出版、平成十二年

末尾の参考文献リストです。

『神隠しと日本人』は、神隠し譚の類型分析がとても面白い、民話研究の本。
『隠し念仏』は、隠し念仏の数少ないまとまった研究。
『鎮守の森』は、鎮守の森の現状を調査した1冊。
『妹の力』は↑でお話したとおり、柳田国男の代表作のひとつ。
『秋田のことば』は秋田弁辞典です。

関連記事:
【奇習邪宗】日本の土着・民間信仰を知る本10冊(前編)【民俗神】
【民話伝承】日本の土着・民間信仰を知る本10冊(中編)【フォークロア】
【記紀神話】日本の土着・民間信仰を知る本10冊(後編)【古神道】




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 番外編.


『神様』では民俗学以外の本にも言及している箇所があります。
番外編として、五つの場面をピックアップ。


 来須さんはいつも、先生と賢さを競いあっている。『二銭銅貨』の語り手と松村のような関係だという。

マナの独白。秘境の山村に向かって歩くシーンです。
「二銭銅貨」は江戸川乱歩の名作短編。
暗号解読やどんでん返しが魅力的な物語です。

「帰りの旅費を浮かす魂胆だとしたら、屋根裏から口のなかに毒薬を落とす」
 ユニークなおどし文句だ。

来須のせりふ。
マナは気づいていないようですが、こちらも江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」にひっかけた言いまわしです。

「二銭銅貨」と「屋根裏の散歩者」は、以前の記事(【絵本】クリスマスに恋人に贈りたくない本10冊【小説】じつは読書案内? 『狼ゲーム』に出てくる定番推理小説10冊)でも紹介した『江戸川乱歩傑作選』に収録されています。




「これを密室と呼んだらカーに叱られてしまう」
 外国人の知り合いがいるのだろうか。
「密室の講義、ね」

マナと来須のかけあい。
「密室講義」はカーの『三つの棺』のなかで展開されている、密室殺人のトリック分類した講義です。




「想像上の友達、ですか」
 ちいさい頃に読んだ『アンネの日記』を想い出し、私は言った。

「マナちゃん、思考をとめるな。王様は裸だと言える大人になれ」
 裸の王様。

どちらも中盤の謎解きシーンです。

『アンネの日記』はご存じアンネ・フランクの名著。
ナチスに追われる少女がつむぐ、魂の言葉たち。世界的なロング&ベストセラー。
『裸の王様』はアンデルセン童話ですv






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あきか(@akika_a


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【絵本】クリスマスに恋人に贈りたくない本10冊【小説】
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posted by akika at 00:37| 10冊シリーズ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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