2019年10月30日

【民話伝承】日本の土着・民間信仰を知る本10冊(中編)【フォークロア】


今日のなぞなぞ
「日本のフシギな言い伝えを知る10冊は?」

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昔。ある山奥に、竈門炭治郎(かまどたんじろう)という炭焼きの少年がおった。
家族で仲よう暮らしておったが。
あるときを境にぱったりと、炭を売り歩く姿がみえなくなった。

不思議に思って、山にのぼった者の言うことにゃの。
竈門家の居間が血にまみれておったと。鬼の仕業と思われたそうな。

ところがの。
いたましい光景のなか、炭治郎と妹の禰豆子(ねずこ)の身体だけが行方不明じゃった。

その後、浅草で炭治郎をみかけた者があったそうな。
またある者は、枷を口にくわえた禰豆子の姿を目にしたという……。


「俺は長男だから我慢できた!」


……と、「鬼滅の刃」の話はさておき。
(未読の方、すみません><)



今日は以前の記事(【奇習邪宗】日本の土着・民間信仰を知る本10冊(前編)【民俗神】)にひきつづき、この国の土着信仰を学ぶ10冊を紹介していきます。

追記)「後編」もアップしました♪
【記紀神話】日本の土着・民間信仰を知る本10冊(後編)【古神道】


地方のフィールドワークや民話など、今回はさらにフォークロア寄り。
炭焼き職人もいろんな本で登場しています(炭治郎は出てこないけど)。

日本人の感性にダイレクトに響く、
あやしくも心惹かれる10冊
をど〜ぞ〜♪



 本当にあった奇妙な話


著者と一緒にフィールドワークをしている気分になれる、民俗研究の本。
集められた逸話はものすごくディープです。

即身仏(ミイラ)になるための修行の場、入定窟
山奥で贋金をつくる、漂泊の民
人を圧死させてしまうこともあった、オス(熊を獲る罠)。
猿を食べる風習。
墓だらけの村墓のない村
狐憑きの家系。犬神筋……。

「この尾根は、村では姥捨て山といってます。
(中略)
入り口がこんなに狭くなってるのは、中に入れられた老人が外へ出られないようにしてるんだと思いますよ。入り口が広かったら、いくら老人でもはい出してきますからね」
「第1章 修験の里の奇怪な石室」より


こんな話がふつーに出てきます。
ちなみに、この石室。「中に頭骨が転がっていた」そうです……。
(筒井功さんは、地元民の語るこの姥捨て話を鵜呑みにはせず、”伝説”である可能性も冷静に考慮しています)

ひたすら現場を歩き、足で集めたエピソードの数々。
ほかのどこにも載っていない、レアでディープなフォークロア。

 俗信・迷信

日本俗信辞典〈動・植物編〉 (1982年)
鈴木 棠三
角川書店
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動物・植物にまつわる、いわれ、信仰、禁忌、まじない、迷信などを大量に集めた辞典です。
ちょっとした辞書より分厚いほどで。たとえば、神話や民話によく出てくる「蛇」なんかは15項目に分かれ、40ページほどの解説が続く。

〇ヘビを屋敷或いは家の守り神と考えている地方は広い。だから、屋敷の周りや屋敷内のヘビは殺してはならぬ(埼玉・山梨・長野・新潟)ものとする。富山県小矢部市では
(後略)
「蛇(1) 家の守り神 神秘の蛇」より


こんな感じで各地の言い伝えを網羅していきます。
読み通すというよりは、好きな部分をひいて調べる感じの本。
たかが迷信とあなどるなかれ。食べあわせの良し悪しや、天気の予測、健康の秘訣など、生活の知恵が存分にこめられている……はず。

カエルを箱に入れて置くと消え失せる
「蛙(2)」より


こんなのもあるけど。
どういう意味なんだろうこれ。なんの手品?
(跳んで箱をあけて逃げちゃうから気をつけて、かな)

 神隠し


民話や伝承で語り継がれてきた「神隠し」譚を分析していきます。
何者が、いつ、どうやって”隠す”のか。捜索は? 失踪者は戻ってくるのか? 帰還した者が語る異世界は?

類型や約束ごとを丁寧に整理していくと、かなりパターン化されたテンプレがみえてくる。
泉鏡花や大江健三郎など、文学に描かれた神隠しの具体例も。
怪異のヴェールにつつまれた物語の外で「本当は何があったのか」についても推理しています。
神隠しとは何かを探る興味深い本。参考文献も豊富にあがっています。

 民俗宗教


学部生・大学院生の強い味方、世界思想社の「学ぶ人のために」シリーズより1冊。
12人の研究者がそれぞれの得意分野を概説。
↑で紹介した小松和彦さんも「ノロイ・タタリ・イワイ」の項目で執筆しています。

その小松和彦さんが、『日本書紀』の記述をひいて「タタリ」の構造をとらえている部分が面白かったので、まとめ。
あらすじとしては……

大物主神「私をまつれ。さすれば災厄はおさまる」
崇神天皇「言われた通りにしたのに、おさまらないじゃないですかやだー」
大物主神「おまえじゃだめだ。我が子、大多々根子に私をまつらせろ」
崇神天皇「さ、先に言ってよー」

こんな感じのお話です(いろいろひどい笑)。
ちょっとマニアックで申し訳ないのですが、私的メモ。

 この話には、災厄の発生→巫女の神がかり・託宣→大物主の祟り→大物主の祀り上げ→祀り上げの失敗→夢占い→大物主の夢告→祟り神による祭主(神主)の指定→祭主による祀り上げ→マツリの受納、というように、日本のタタリ信仰の構造・メカニズムが集約された形で表現されている。
「3 ノロイ・タタリ・イワイ」より


本書は、考古学やジェンダーなど周辺領域もおさえていてオススメ。
神仏、霊、魂、他界、血、性、祭、夢……民間信仰・民俗宗教でかならず出てくるテーマがひと通り論じられています。
もちろん参考文献も豊富。興味をひろげていく足がかりになります♪

 みうらじゅん


以前の記事(最近読んだ「好きを仕事に」する本10冊)で『「ない仕事」の作り方』を紹介したみうらじゅんさん。
”なかったジャンル”を”一人電通”的に流行らせていくサブカリストです。
「勝手に観光協会」を結成しご当地ソングを”勝手に”リリースするなど、地方を応援する立役者でもあります。
”勝手に応援”活動はとどまることを知らず、もはやフォークロワの域に!?

天狗、仏像、奇祭。
銅像、菊人形、即身仏。
なぜか日本にあるキリストの墓、鍾乳洞……。


研究対象は多岐にわたり、サックス吹く銅像ゴムヘビ(ヘビのおもちゃ)の”生態系”までリサーチまでしはじめる。
飛び出し坊や(飛び出し注意を喚起する、子供をかたどった看板ね)なども。
無駄で無益なエネルギーにしびれる、みうらじゅんさんワールドv

関連本として、各地のへんなお祭りを集めた『とんまつり』と、もらってもあまり嬉しくないお土産を蒐集した『いやげもの』もどうぞ♪




 柳田国男


日本の民俗学の始祖、柳田国男の代表作ふたつを収録したオトクな1冊。
「遠野物語」は岩手県遠野に伝わる民話伝承を聴き書きした説話集。
サムトの婆や、ザシキワラシ、マヨイガ、オシラサマなど、有名なお話がたくさん。

「山の人生」(と「山人考」)は、怪異もふくめ山で生きる人・モノたちのエピソードを集め考察をくわえています。
『神隠しと日本人』でもたびたび引用されています。

誰にも頼れない人が一種の選択として「山に入る」例がある……と説きながらも、柳田国男は続けます。

それだけならよいが、人にはなおこれという理由がなくて、ふらふらと山に入って行く癖のようなものがあった。少なくとも今日の学問と推理だけでは、説明することの出来ぬの人間の消滅、ことにはこの世の執着の多そうな若い人たちが、突如として山野に紛れ込んでしまって、何をしているかも知れなくなることがあった。
「三 凡人遁世の事」より


「山の人生」のメインテーマはこのあたりだ、と柳田国男は言います。
そして自分も「神隠しにあいやすき気質」だと語る。

あらゆる本で言及され続けている、フォークロア文学の名著。
未読の方はぜひ。


☆★☆



柳田国男や遠野が出てきたところで。ここからは東北にまつわる民俗学を。
伝承と民間信仰の宝庫、東北地方特集! です。
ふかく踏みいった先には、得体のしれないセカイがあった……。
(青森・岩手・秋田が中心です。福島・宮城・山形の方はすみません><)

 イタコとオシラサマ


東北地方の土着文化を「イタコ」「オシラサマ」にフォーカスして綿密に取材した1冊。
イタコは、自身に死者を憑依させる”口寄せ”を行なうシャーマン。
オシラサマは、東北を中心に広く信仰されている、服を着た木の棒。民俗神です。

イタコとオシラサマがメインですが、「V 東北彷徨」ではほかの民間信仰の様子もレポートされます。

地蔵信仰、百万遍の数珠送り(念仏回し)、虫送り。
稲荷、能舞、冥婚(死霊結婚)、絵馬……。


れっきとした伝統ある信仰だけど、なんだかオカルトの香りがするのがこの地方かもしれない。
じつは私自身、東北に縁があるのですが、こういう豊かで怪しげな(!)習俗の数々はぜんぜん知りませんでした。
死者に婚礼をあげる風習があるなんて……。
(ちなみに、全編とことん誠実なルポタージュですが、「川倉の冥婚式」の場面では怪奇現象が出てきます)

レアな写真や、イタコの生の声も収録されている、貴重な本。
東北の民間信仰を知るなら、この1冊から。

 寺山修司

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本10冊とは別に、いっこだけ映像作品を。
寺山修司の歌集「田園に死す」(↓『寺山修司全歌集』に収録されています)を原作というかモチーフにした映画です。監督も寺山修司。


舞台はなんと、恐山。
閉鎖的な村で育った少年の、思春期のもやもやが描かれていきます。

ぜんたい的におどろおどろしい色使いで、くらくらするほど。
主人公の顔が不気味な白塗りだったり、かなりアートな作品です。
なんともいえない不思議なレトロ感。お笑いのくっきーさんとか日本エレキテル連合はこのへんがルーツなのかな〜なんてふと思いました。
サーカス(見世物小屋)の雰囲気も怪しすぎて好きv

でね。
イタコの口寄せもそうだし、長〜い数珠をみんなでまわす場面があったり。
知っていると「あっ」って想う民俗的なシーンが散りばめられています。
ひな壇がまるごと川を下ってくる場面は……流し雛!?

↓ラストの独白にしびれます。

新宿区新宿字恐山。


もちろん、新宿に恐山っていう字(あざ)はないわけで。
都会に生きている自分だけど、ほんとうの心の住所は、幼少期を過ごした「恐山」にあるのだ……みたいな。
アルタ前の交差点がずっと映し出される、じわじわと鳥肌が立つエンディングです。
(私信。観ました♪ アングラでレトロな雰囲気、なんでいままで観なかったんだろうってくらい、好みのど真ん中でした!)

 青森

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カミサマは、神のことじゃなくて、東北地方の祈祷師たち。
↑の『イタコとオシラサマ』でも言及されています。
オカミサンやゴミソなどとも呼ばれる「民間巫者(巫女)」です。

巫術をもって相談者の悩みに答える霊能者……イタコのような存在ですが、いちおう区別されていて。
たとえば、イタコの多くは盲目で、口寄せを行なうけれど、ゴミソはそうでもない。
「成巫過程」(霊能力を得るプロセス)は、イタコは師弟制だけどゴミソは自発的、など。
(イタコを含めた拝み屋の総称としてカミサマを用いる場合もアリ)

たんにフィールドワークだけでなく、宗教学として信仰の構造を分析しています。
著者のスタンスは↓こんな感じ。

どんな社会でも、宗教の専門家を自称したり、自分をとりまく世界に統一的な原理や秩序を求め、これを体系的に説明したがる人はいる。
(中略)
しかし、ひとたび一般の人びとが実際にこれらの神々を拝んだり祀ったりしている場所へ入ってみると、かならずしもそれほど体系化された神観念が共有されているとは限らない。
「第二章 救いの構造」より


人びとは明確な他界観や霊的世界の見取図を十分に理解し、これに納得したから礼拝するのではなく、むしろ単なる慣例であるという理由だけで儀礼に参加したり、願いが叶えられるであろうという期待だけで神々を拝むのだ、という方が真相に近いこともあるだろう。
「第二章 救いの構造」より


安易に結論に飛びつくことなく、研究者らしい慎重な手つきで構築されていくロジック。
提示されたモデルはものすごく面白くて、なんというか、統一理論がふいにあらわれた感じです。
救いとはなにか、を普遍的にとらえていく刺激的な1冊。

 岩手


以前の記事(【奇習邪宗】日本の土着・民間信仰を知る本10冊(前編)【民俗神】)で『隠し念仏』を紹介した門屋光昭さんの、宮沢賢治研究書です。

鹿踊りや鬼、馬、河原の坊……賢治の文学に出てくる民話的なモチーフにスポットをあてる。
といっても、たんに近隣の伝承との類似を指摘するのではなく、作品の世界そのものを民俗学的な手つきでさぐっていくようなおもむきです。
門屋光昭さんはこの方法を「イーハトーブ・ふぉくろあ」と名づけています。

賢治と交流のあった佐々木喜善(鏡石)も登場。座敷童の話など「遠野物語」も引用されています。
宮沢賢治ファンはもちろん、フォークロアが好きなひとも楽しめる文学研究書。

 秋田

秋田むがしこ
秋田むがしこ
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無明舎出版
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秋田県全域に散らばる昔話を採集してまとめた、資料的価値の高い1冊。
表記が原話の方言のままなので、なんだか現地のじいちゃんばあちゃんからお話を聴いているようなあったかさがありますv
わかりにくい言葉は、カッコつきのルビで標準語を併記しているので安心。

ダジャレのお話がけっこう多い。
たとえば「旅人とわだしッコ」という物語。
ある娘にわだしッコ(焼き網)を借りて返した木綿売りがいたのね。
すると、娘は……

貴方にくっついで行く。


と、彼を追いかけていく。
まさか求婚されているのか!? と思い、彼が走って逃げても。
「私はあなたについていく!」と、娘は追いかける。

わだしが 貴方にくっついで行く。


じつは、彼の荷物の上に、返したつもりの焼き網(わだしッコ)が引っかかっていましたとさ。
(秋田弁では、カ行やタ行は濁音になります。名詞には〜ッコがよくつきます)

「これ、わだしッコ このとおり、貴方さ くっついで来たのし。」
「六 旅人とわだしッコ」より


縁側で民話を味わうような気分でどうぞ♪




ノーリスク・ハイリターンの投資は"読書"♪


あきか(@akika_a

(冒頭の写真は河口湖ミューズ館・与勇輝館です)

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