
「紫禁城の歴史がわかる本5冊」をまとめました。
取りあげた書籍は……
『紫禁城―清朝の歴史を歩く』
『北京 故宮博物院展』
『蒼穹の昴』
『紫禁城の黄昏』
『わが半生』
順に、
読みやすい新書
博物院となっている現代の紫禁城(故宮)のガイドブック
浅田次郎さんの歴史小説
清朝最後の皇帝の家庭教師・ジョンストンによる手記
清朝最後の皇帝・溥儀の自伝
です。
本とはべつに、溥儀の生涯を描いた映画『ラストエンペラー』も紹介しています。
清の時代がまさに終わろうとしている”黄昏時”。
ジョンストンは、こんな言葉を残しました。
シナには近代欧米的な意味での国家は、かつて存在したことがなく、いろいろな王朝があっただけである。『紫禁城の黄昏』より
明から清へ。近代まで中国王朝の歴史を支えた紫禁城。
紅い墻壁と黄色い瑠璃瓦は美しく、数々のドラマや映画の舞台にもなっています。
今なお世界じゅうの人々の惹きつけてやまない、
故宮・紫禁城の魅力を味わいつくす5冊をど〜ぞ♪
紫禁城
かつての紫禁城――故宮博物院を歩きながら、明朝〜清朝の歴史をひもといていく。
大和殿と保和殿のたたずまいに、まだ少年であった康熙帝の即位と親政をしのび。
後宮の改造された西六宮に、西太后の”強運”を見出し。
寧寿宮の九龍壁に、乾隆帝の審美眼をみる……。
”場”と”歴史”が同時に詳しく解説される文章は、歴史ロマンそのもの。
本格的なガイダンスを聴きながら故宮を散策している気分になれる、オススメの良書です。
故宮博物院展
北京 故宮博物院展 大型本 ? 1983/1/1
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故宮博物院展――日本でおこなわれた故宮博物院の展示会のガイドブックです。
日中国交正常化10周年記念……と、かなり古い本ですが、内容が濃く、写真も解説も素晴らしい。資料としてオススメです。
前半は、写真をふんだんに掲載し、故宮の様子と歴史を解説。
後半は、「陶磁器」「漆工芸」「玉器」「絵画」「書と文房具」のジャンルに分け、博物院に収められた文物を紹介しています。
希少本ではありませんが、重版はなく、現在手にできるのは中古品のみ。
40周年↓のときにも同様のパンフレットが作成されました。
蒼穹の昴
『蒼穹の昴 2』
『蒼穹の昴 3』
『蒼穹の昴 4』
浅田次郎さんの小説です。
科挙に受かり出世していく梁文秀と、糞拾いから宦官になった同郷の少年・李春雲のふたりを軸に、時代に翻弄される人物たちを描き出しています。
語られるのは清の光緒帝の時代。戊戌の政変(変法)(1898年)の前後まで。
以前の記事(後宮が舞台の小説10冊)で紹介した『テンペスト』とおなじように、懸命に生きる個人が”歴史のうねり”に取りこまれていってしまうのがとても哀れ。
終盤は涙なしには読めない名作です。
歴史小説なので、もちろん実在の人物がたくさん登場します。
光緒帝や西太后をはじめ、康有為、袁世凱、李鴻章……。
清朝の宮廷画家・郎世寧(カスティリオーネ)や日本の伊藤博文まで、有名な人物がいきいきと動きまわるさまは圧巻。
(梁文秀と李春雲のふたりは架空の人物ですが、実在の梁啓超と小徳張がモデルだともいわれています)
舞台となる紫禁城や、離宮の頤和園の描写も精緻。
タイムスリップして清国をみてきたかのような、すごい小説です。
↓「蒼穹の昴」シリーズとして、新たな作品が続々と上梓されています。
最新の『兵諫』では、西安事件(1936年)までが描かれます。
『珍妃の井戸』
『中原の虹』
『マンチュリアン・リポート』
『天子蒙塵』
『兵諫』
紫禁城の黄昏
清朝が倒れゆくさまをみてきたように……というか、みてきた人が語る。
著者は、最後の皇帝・溥儀の家庭教師、ジョンストンです。
史料ともいえる1冊ですが、訳がよく、読者を引っぱりこむような展開力も素晴らしくて、ぐいぐい読まされてしまう。
人物解説、年表、系図、地図、写真……と掲載資料が豊富で、細部の理解を助けてくれます。
メインは宣統帝・溥儀の時代。でも本書が語りはじめるのは西太后の時代、戊戌の政変から。なので、ちょうどの『蒼穹の昴』続きを読んでいるような感覚になります。
蒼穹→黄昏の順に読むのもオススメ。
皮肉をまじえ、鋭い批評眼で時勢を分析するジョンストン。
ですが、皇帝のことを語る文章は一転して敬愛にあふれています///
中国王朝最後の「黄昏」の時代。
名作映画「ラストエンペラー」とセットでどうぞ♪
ラストエンペラー
ラストエンペラー [Blu-ray]
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というわけで、本5冊とはべつに映画「ラストエンペラー」を紹介。
紫禁城と満州国を舞台に、中・伊・仏・米が共同で製作した歴史映画です。
作曲家や役者として、日本の坂本龍一教授も参加しています。
幼帝として即位し、実権を失った皇帝として紫禁城で育つ溥儀。
やがて紫禁城を追われ、流されるように満洲国の皇帝となるも、満州国は崩壊。
ソ連軍にとらわれ収容所へ……。
こんな、三行でまとめるだけでも壮絶な、愛新覚羅溥儀の一生が描かれます。
ちなみに皇帝が政権を失った”黄昏時”の紫禁城は「清室優待条件」という決まりごとによって、皇室や使用人たちが生かされている状態。
年金をもらって暮らしている感じです。
形骸化した城でコオロギと遊び、自転車を乗りまわし、宦官とたわむれ、皇后や側室を愛する”少年皇帝”溥儀。
誰よりも当事者なのに、誰よりも蚊帳の外にいて力のない皇帝の描写がなんともいえず切ない。
家庭教師ジョンストンと溥儀の友情や、”第二夫人”であることに葛藤をおぼえていく側室の文繡など、様々なテーマが内包しています。
名作なので、まだ観ていない方はぜひ♪
↑で紹介した『紫禁城の黄昏』も、収容所の取り調べのシーンで登場しています。
わが半生
ラストはその”最後の皇帝”の自伝。著者は宣統帝・愛新覚羅溥儀です。
「ラストエンペラー」の原作本でもあります。
↑で紹介した『紫禁城の黄昏』を歴史評論にたとえるならば、『わが半生』は一人称小説。
復辟を願いながらも周囲の思惑に巻きこまれていく溥儀の、怒りと悲しみが綴られています。
皇帝の視点で歴史の激動を見つめる貴重な1冊。
(下巻の「制作経過」をみると、溥儀以外の手もかなり加わっているようですが)
『黄昏』では描かれなかった、ジョンストンと離れた後の話ももちろんあります。
もうね、『黄昏』とセットで読むと、ふたりの師弟愛にあてられてしまう。
私の目には、ジョンストンのすべてがもっともすばらしく、彼の服の樟脳の香りさえかぐわしく思われるようになったのである。
ジョンストンはすでに私の魂の重要な一部を占めていた。ともに「第三章 紫禁城内外」より
……樟脳の香り!
同時に読むと、色々とはかどると思います。何が。
いえ、まじめな話。おなじ出来事が表裏で語られていたりするので、復習にもなるし、多視点で史実を味わえて興味ぶかい。
年表など『黄昏』に掲載されている資料は、本書を読むときにも役立ちます。一緒にどうぞ。
情報量がとても多く、皇室や紫禁城の細部など、ほかの本ではみられない内容がたっぷり。
”キャラ読み”もできる名著です。
ノーリスク・ハイリターンの投資は"読書"♪
あきか(@akika_a)
(冒頭の写真は川越熊野神社、期間限定の「恋手水」です)
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